ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
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■【File096】スパイとエニグマとUボート【ネタバレ警報/後編A・・・完結編】
物語の発端は、前述の如く暗号コードシャーク≠フ変更によりエニグマ暗号の解読が不能になった事でUボートの動向が掴めなくなり、さらにそのUボートの待ち伏せている海域へ、貴重な物資と兵員を満載した3つの巨大輸送船団が突き進んでいる、という事だった・・・それでは英政府や海軍のお偉方を大慌てさせた原因は一体何だったのか?結論から言ってしまえば、貴重な輸送船団を犠牲にする事によって、わざとUボートに輸送船団発見報告電を発信させ、その電文(暗号)内容と発信位置を元に、変更された暗号コードを解析する事。当初輸送船団が大きな被害を被る・・・と言って大騒ぎしていたのは何処へやら。その間に物語は「カチンの森の虐殺」事件を背景にした謀略戦を巡るサスペンスが主体となって行くのである。しかし、これは原作本『暗号機エニグマへの挑戦』でも、その通り描かれているので、映画の責任ではない。こうやって考えて行くと、物語の中で輸送船団の被るであろう被害は余り重要では無いという事が朧げながら見えて来る。物語の中では、如何にもUボートの発するエニグマ暗号通信の解読する事よって輸送船団を守れる様な風に受け取れるが、実はこの状況下ではUボートの暗号が解読出来ても既に対策としては遅すぎるのである。実際この段階では既にUボート戦隊が輸送船団の予定航路に散開して哨戒しており、その発信する電文は、連合軍輸送船団の発見電報しかありえない。これがパリにあるUボート総司令部と付近の海域を哨戒中の他のUボートに受信され、ウルフ・パック(群狼作戦)が展開される訳である。例えエニグマ暗号が解読出来たとしても、英国海軍総司令部が出来る事は、輸送船団を引き返させる命令を出すか、Uボートの待ち伏せを警告するくらい。輸送船団を引き返させる事は、この段階では不可能。連合軍の全ての作戦が、この船団が輸送している物資の到着を前提として動いている。ここで輸送船団を引き返させたとしても、輸送計画を中止する訳にも行かず、結局は再度Uボートが待ち受ける大西洋に送り出さなければならない。連合国側が実施していた輸送船団方式=コンボイ方式は、長年の経験によって培われたランチェスターの法則≠ノ基づき、ある程度の損害を想定した上で運用されていた。したがって輸送船団を引き返させ、今後の作戦全体に大きな齟齬を発生させるよりは、ある程度の損害を覚悟した上で、Uボートの待ち伏せる海域を強行突破させる事が戦術・・・いや戦略というものだ。また1942年頃には輸送船団に所属する護衛艦や船団長座乗船など何隻かにはHF/DF(通称ハフダフ:高周波方位測定器)が搭載されており、Uボートの発する僅かな電波を探知し、それによってUボートの待ち伏せ位置(方位)を測定する事が出来た。したがって物語中に登場する輸送船団も、前方に待ち伏せるUボートの大体の位置は、Uボートからの船団発見電報によって探知出来ていた。そんな訳でシャーク<Rードの解読の遅れは、この輸送船団の被る被害については、左程影響が無かったのはないか・・・と言える。結局輸送船団はシャーク<Rードの解読の為に、良い餌となったに過ぎないのだ・・・。ATF個人としては、わざわざ「カチンの森の虐殺」事件を伏線に持ってくるよりは、この輸送船団にからんだ暗号解読の話をメインにして欲しかった。
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09月13日(土)
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