ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647646hit]

■『脱走』
『脱走』@新宿ピカデリー シアター2

南極好きにはキエーとなるエピソードあり。でも私のひいきはスコット隊なんだ…そんでやっぱいちばん凄いのはシャクルトンだと思うんだ……(そういえば映画化の話どうなった) こういうのをエンタメとして見せる韓国の胆力よ 『脱走』

[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 21, 2025 at 19:44
スコットは軍人としては立派だが規律と研究を重んじたが故に隊を全滅させ、シャクルトンは時間はかかったが部下全員と生還した“史上最強のリーダー”。でもスコット隊は研究のための試料採取とかやることいっぱいあったんだよ! 極点到達だけが使命じゃなかったんだよ! と本編と関係ないことを熱く語ってしまう。

未開の地と自分の可能性を追求し続けたアムンセン。彼の功績は、自由と未来を自分で切り拓こうとする主人公の目標そのものだったんだ。

原題『탈주(脱走)』、英題『Escape』。2024年、イ・ジョンピル監督作品。2017年に、数十発の銃弾を浴び乍らも走って国境を越えた北朝鮮兵士がモデルのようです。所謂「脱北」ルートは中国経由の陸路か船を使った海路というのが通常のところ、軍事境界線を突破するとは。しかも軍人が(というかこのエリアに入れるのは軍関係者しかいないだろうが)。という珍しいケース。

退役を間近に控えたギュナムは南へ亡命するべく綿密な計画を立て、準備万端で実行の機会を窺っている。心の支えは南のラジオ番組とアムンセンの伝記本。しかし想定外のことが次々と起きる。ギュナムの計画に勘付いた部下が自分も連れていってほしいといいだし、そこへ国家安全保衛省の幹部となった幼馴染みのヒョンサンが絡んでくる。国境迄は約2km、地雷だらけの草原をギュナムが駆ける。ヒョンサンが追う。捕まれば間違いなく処刑されるギュナム、逃せば相当の処罰が待っているヒョンサン、逃げる者も追う者も命懸け。

ホンも演出も巧くて気が休まらないシーンの連続。映画館では他の観客の緊張感もバリバリ伝わってくるのでカラダがガチガチになりました。終盤のあのシーン、あちこちから「あっ」「きゃっ」と悲鳴が漏れてた。あれは声出るわ。地雷、軍事境界線にある電話の使い方も巧いし、伝記本、方位磁石、ラジオ、ペンダントといった小物にまつわるエピソードもエモい。反面、あのひととかあのひとたちはどうなったの!? てのもそこそこある。確かに主人公視点だとその後のことは知らんとなるが、観客としては流浪民の皆どうなったのよ〜! 無事でいてくれよ〜! と祈るばかりだよ……。

あまりにも話運びが巧いので、観ている側もそれに乗っちゃう訳です。ゲームっぽいとでもいおうか、小道具だけでなく人物も「アイテム」にされている感じがする。キャラクターの戯画化も際立っている。音楽をやっていたヒョンサンの耳がめちゃいいというのもゲームキャラクターにおけるLv値のようだし、ってそもそもヒョンサンの登場シーンとかあまりにもキャラ立ってて笑ってしまったもんね。めくるめく男と男の愛憎っぷりもすごくて、めっちゃつかこうへいの芝居を思い出してしまった。男と男の距離が近い! 顔が近い! つか作品好きなひとに是非観てほしいわ〜(ヘンな勧め方)。

すごく「よく出来ている」んです。観ているうちに「面白がってていいのか……?」となんとなく後ろめたくなってくる。南北分断はエンタメ業界からすれば格好の素材でもある訳ですが、一歩間違えばプロパガンダになる可能性がある。『宝くじの不時着』くらいになるとコメディとして屈託なく笑えるし、ホントにそうだったらいいのにねえくらいに思うけど……とモヤモヤしていた終盤、ギュナムとヒョンサンのやり取りにハッとさせられる。


[5]続きを読む

06月21日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る