ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647677hit]
■東京バレエ団『ベジャールの「くるみ割り人形」』
東京バレエ団『ベジャールの「くるみ割り人形」』@東京文化会館 大ホール
ベジャールの母を見送り、ベジャールを見送り、そして今回飯田宗孝さんを見送る。彼岸と此岸の境目が消えていく。皆笑顔で手を振り去っていく。一周まわってまた会える、なんてつい思ってしまいそうになる一幕の幕切れが素晴らしかった 東京バレエ団『ベジャールの「くるみ割り人形」』
[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Feb 8, 2025 at 18:40
それでも人生は一度きり。舞台もそう。この日の彼らには二度と会えない。
東京バレエ団創立60周年記念シリーズ、締め括りとなるその12。長いな(笑)。それだけ代表作を多数抱えていること、ダンサーたちの充実と層の厚さが窺える。古典の『くるみ割り人形』はクララという女の子が主人公だが、モーリス・ベジャール版の『くるみ〜』はビムという男の子が主人公。ビムはベジャール自身。7歳で母を亡くし、バレエに魅入られ、「バレエと結婚」したベジャールが『くるみ〜』を通して人生を振り返る。母との別れ、父と妹の存在、少年時代の思い出の数々、バレエとの出会い、戦争、そして旅、旅、旅。人生は旅だ。
死、そして戦争の色が濃い。ボーイスカウトがキャンプで入る寝袋がハートロッカーに、合唱隊は死者を送る聖歌隊に見えてくる。思えば『バレエ・フォー・ライフ』でも、遺体を覆うシーツが出てきた。戦争に関しては「中国」のシーンで軽やかに暗示されるが、そのさりげなさが逆に強い印象を残す。ベジャールが71歳のときに創作された今作は、20世紀という歴史を俯瞰してもいる。人民服と自転車の中国、神秘的なアラブ。ロシアは現在のロシアではなくかつてのロシア帝国のことを指し、振られる国旗はソ連のものだ。
クリスマスの夜、まどろむビムは夢のなかで母と再会する。ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』がモチーフだろう、巨大なヴィーナス像が現れる。その胎内で抱き合う母子は幸せな、同時に再びの別れを予感しつつひとときを過ごす。母に美しいものを見せたい。母が不在の間、どんなことが起こっていたか知らせたい。僕はバレエに出会った、マリウス(・プティパ)に出会った、さまざまな美しいものに出会った……ビムは世界を駆け巡る。そんな彼に飼い猫のフェリックス、光の天使と妖精たちが寄り添う。
ベジャール作品は舞台全体が美術品なのでひきで観たいのだが、今回はビムの表情が見たくて前方席をとった。池本祥真さん素晴らしかったな…大塚卓さんのダイナミックかつ優雅なM…、チャーミングのかたまり宮川新大さんのフェリックス、そしてジルが、ジル・ロマンがもうな😭
[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Feb 8, 2025 at 18:49
いやもう、池本祥真が少年も少年だった。7歳!
実は池本さんはフェリックス役だと思っていたのだった。いや…小林十市が踊った役を継承していくのだろうという勝手な思い込みがあり……。それだけ『M』の「シ」が強烈なインパクトとして残っているということだ。あれから4年半、プリンシパルとなった池本さんは、ベジャールの分身でもあるビムを演じる。母を失った寂しさ、心躍るバレエの世界を全身で表現する。なんて瑞々しい踊り、瑞々しい表情。バレエを習い始めた頃のビムも演じるのでちょっと下手ッピなふりもせねばならないのだが、そのどれもが愛らしい。ボーイスカウトに入って集団行動を学び、厳しいM...に接して右往左往する。「ママー!」と叫べども母は死の世界へと去っていき、手元にはヴィーナス像が残る。少年の心と母への思慕を持ち続け、それをバレエに昇華する芸術家へと成長していく……。思い出すだけで涙が出てしまうビム像だった。余談だが舞台上での衣裳替えというかもはやこれは着替えだろうという場面も多く、その段取りも大変だよなあなどと思った。音楽が鳴っている状態なので、ちょっとでも着替えがもたったら舞台そのものが止まってしまうものね。
[5]続きを読む
02月08日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る