ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647679hit]

■『ゴンドラ』
『ゴンドラ』@シネマカリテ シアター1

ファイト・ヘルマー新作! この監督の映画っていつもファンタジーの皮を被った軽犯罪ノワールなんだが「閉塞的排他的環境の掟に背く」瞬間の登場人物たちの表情にどうしても惹かれてしまって結果好き❤️ 『ゴンドラ』(席予約に行ったとき先にポスター撮ってた) pic.twitter.com/n0Wu1aIX6o— kai ☁️ (@flower_lens) November 4, 2024
ヘルマー監督は「死ぬまでの短い時間」を捉える名手。社会は厳しく人生は寂しい、でも人生は素晴らしい。それにつけてもロケハンの鬼。

---

台詞がほぼなく(しかしサイレントではない)、時代にも場所にも縛られない映画を撮り続けているファイト・ヘルマー。今回は辺境で暮らすひとびとが交通に利用するロープウェイが舞台。日々のルーティンのなかで人生の楽しみを見つけていく女性ふたりと、周辺の人々が描かれます。台詞は万国共通の「OK!」というひとことだけ。

村人を運び、棺を運び、牛を運ぶ。駅長から搭乗拒否されていた車椅子の男性を運ぶ。ロープウェイですれ違う乗務員の女性たちは、折り返しの駅でチェスを指す。いつしか恋に落ちたふたりはゴンドラを装飾し、制服をアレンジし、楽器を持ち寄りセッションをする。駅長の目を欺き、いたずらっ子のようにクスクス笑う。

冒頭ツイートにも書きましたが、結構やらかしているのです。覗きでしょ、窃盗でしょ、空き巣でしょ。駅長の末路も可哀相っちゃ可哀相ですし、それはあかんやろと顔をしかめてしまう瞬間が随所にある。それでも、意地悪な駅長の鼻を明かす場面には爽快な気分になり、空中散歩をする車椅子を見て快哉を叫ぶ。考えてみれば童話って、ノワールと紙一重で残酷なものですよね。ちなみにこのロープウェイ、全長1700mで途中に支柱がありません。設備も古いし、途中で停まったら…ワイヤーが切れたら……想像しただけで鳥肌が立ちますが、あの映像美には抗えない。薄く靄のかかった緑深い山あいを、ゆっくり走行するゴンドラ。外灯もない闇のなか、ちいさな光を帯びて浮かぶゴンドラ。幻想的な風景を目に出来る幸せと、映画というものの力をひしと感じる。

前作『ブラ!ブラ!ブラ!』の撮影地は再開発により消え、今作のゴンドラも既に新しい筐体になっている。「なくなっていくもの」を残すことの美徳を、この作品は持っている。

『ブラ!ブラ!ブラ!』の撮影地となったアゼルバイジャンも、今作のアジャリア(後述)も、政治的な理由で表現に規制がかかり、締め付けは年々厳しくなっているという。今作は意図せずしてクィア作品になったそうだが、現地ではそのことを公表せずに撮影を進めたとのこと。恋人たちがこの地を去ったかのような幕切れに、幸せな未来を願わずにはいられない。彼女たちの笑顔が曇ることのない時代や場所が、幻想のなかだけではなく「今、ここ」にあることをひたすら祈る。そして、ヘルマー監督がこうした映画を撮り続けられる世界であってほしいと思う。

-----


もう予告編だけで胸がいっぱいになる〜ロケーション、小道具、衣裳の拘りよ。繊細な音があちこちに配されているので、可能な方は是非劇場で

ジョージアにこうしたゴンドラがあるというのは、ニヒル牛あるさんのこのツイートから知ったのでした。これはチアトゥラのもの https://t.co/qjJP6D8iNM— kai ☁️ (@flower_lens) November 4, 2024
イスクラさんの本『コメコンデザイン15「ウクライナとジョルジア」』にもチアトゥラのゴンドラは乗っています。『ゴンドラ』の舞台は自治共和国アジャリアを流れるアチャリスツカリ川峡谷のフロという村のものだそうhttps://t.co/mdaqDFa4Po— kai ☁️ (@flower_lens) November 4, 2024
『ゴンドラ』の作品紹介を目にした瞬間「あのロープウェイだ!」と公開を楽しみにしていたのでした。実際には同じ場所のものではありませんでしたが、逆にチアトゥラ以外にもこんなロープウェイがあるのかと驚いた。コーカサス山脈に囲まれている地域のため、欠かせない交通機関なのだそう

・どの国からも承認されていない国家「アジャリア」に行く┃デイリーポータルZ

[5]続きを読む

11月04日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る