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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『密輸1970』
『密輸1970』@新宿ピカデリー スクリーン1
『密輸1970』海女が密輸! 迫る税関そしてサメ! シスターフッド! いやもうキムヘスが格好よくて格好よくて 姐さーん! アクションもバイオレンスももりもりですあとタコとウニのことが好きになりますスンワン監督最高 舞台挨拶も楽しゅうございました! pic.twitter.com/eH71HEjW3d— kai ☁️ (@flower_lens) July 13, 2024
『モガディシュ』のときどなたかが「リュ・スンワンは映画が上手!」と仰ってましたがいやホントに。情報の取捨選択がすごい的確なんですよね。あとリズムのよさ。職人!
原題『밀수(密輸)』英題『Smuggler』、2023年、リュ・スンワン監督作品(共同脚本も)。1970年代、海女が密輸を行なっていたという実話から発想された、女性たちの物語。貧しく搾取されるばかりだった海女たちが一攫千金を狙い勝負に出る! その前に一回失敗してて、裏切者はあんたか、あんたのこと信じていいのか? というあれやこれやがあります。あんたに命預けるで! と決めてからの彼女たちの活躍がたまらない。爽快で切なくてガッツポーズで。姐さ〜ん! 船長〜!
カードの出し順が巧いんですよね。チームで動くという海女たちの特徴、その海女たちが困窮することになった原因、単独で動いた海女に降りかかる災難。チームの皆を信じないと命に関わる。大仕事の前に彼女たちの信頼関係を回復させる。時系列をちょっと入れ替え、スライドや分割画面で見せていく。総じてバランスがいいんですが、その間に大活劇、バイオレンス、アクションを盛り盛り入れるところがスンワン監督。そこはバランス何それって感じになる(笑)。でもそれがなきゃスンワン監督じゃないね! 今回は大立ち回りがなかなか出ないな? と思った頃にドッカーンと出て笑った。「待ってました!」と大向こうを飛ばしたくなりました。
アクション演出がいつも楽しみなスンワン監督作品なんですが、今回はもう一段階ギアを上げてきた。水中アクションが見所です。海女さんたちが主役だからな。タコ、イカ、アワビも大活躍。岩の隙間も大活躍。海を知り尽くした海女たちは海を味方につけ、海のなかの掟を守れば海は彼女たちを助けてくれる。サメだってそうだもんね。最後サメ来い、早く来い! と思いませんでしたか、私は思った(笑)。で、その期待を決して裏切らないのがスンワン演出。アイディア出し会議とか楽しかっただろうなー。ここでタコが! とかウニが! とか真剣に話し合う大人たちを想像するとニヤニヤします。
キャラクターのバランスもいい。奔放だが信じた仲間は裏切らないチュンジャ、責任感の強いリーダージンスク。海女チームを助ける喫茶店主、オップンも素敵。チュンジャと密輸王の仲ってどうなの? という塩梅も巧い。欲をいえば海女チーム全員の背景をもうちょっと観たかった。アイパッチのお兄さんのその後も知りたい。しかしそれを入れるとリズムが崩れたかもしれないので、簡潔にまとめるという決断があったのでしょう。何しろ映画が上手だから。
バランスといえば、女性たちを描く筆が滑らなかったことにも感心した。女性たちは自分たちの力で戦い抜く。最後は男性に助けられるという図式にならない。密輸王を救世主(王子様的なポジション)にしない。社交性とコネクションを持つ喫茶店主のサポートのもと、海女たちは知り尽くした海のなかを自由に泳ぎまわる。磯笛(後述リンク参照)で互いの無事と居場所を知らせる。男たちの物語を描くことの多かったスンワン監督が! と驚きました。とはいうものの、スンワン監督はいつも弱者への視点を持っているからね。抑圧されている、迫害を受けている人々へのまなざしがある。今回も、軍事政権下で貧しかった時代の韓国を描き、傷ついた人々を描いている。観客は彼らが幸せになってほしいと思い、彼らの笑顔を待っている。それがたとえ犯罪がらみでも。
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07月13日(土)
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