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by kai
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■十八世中村勘三郎十三回忌追善『猿若祭二月大歌舞伎』夜の部
十八世中村勘三郎十三回忌追善『猿若祭二月大歌舞伎』夜の部@歌舞伎座

ち、長三郎丈〜!!! いやあお見事! #連獅子 pic.twitter.com/YjPSWb2eCD— kai ☁️ (@flower_lens) February 10, 2024
すし桶が全部首桶に見えるバイオレンス人情悲劇『すし屋』のあとだったから救われた気分でしたよ……。それにしても十三回忌とは、もうそんなに経ったのか。と何年経ってもいってる気がする。勘三郎さんのことは、ずっと早かった、早すぎた、と思い続けるだろう。

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入場するとお線香の匂い。ロビーには勘三郎さんの遺影に、お花に、香炉。3階席の“想い出の歌舞伎俳優”コーナーには、新たに猿翁さんと段四郎さんの肖像写真が飾られていました。そして劇場のあちこちに、篠山紀信氏撮影のポスター。あまりにも、あまりにも次々と。

しかしそこは中村屋。底抜けの明るさと、その光の強さ故の冥さを強烈に感じさせる追善公演でした。

■『猿若江戸の初櫓』
前日迄体調不良のため休演していた勘太郎丈、初役の猿若を元気いっぱい務めます。声の張りよく仕草もキレよく元気よく、「まああ」「はああ」といったちいさな声が観客席のあちこちから上がります。かわいいというのはあるんですが、ちゃんと台詞が通るところがよい。一座──猿若座(後の中村座)──の現状がきちんと観客へ伝わります。七之助丈の出雲の阿国も艶やか、声のよさ。ふたりの舞に笑みがこぼれます。夜の部が華やかに始まりました。ところが。

■『義経千本桜 すし屋』
冒頭にも書いたがバイオレンス人情悲劇が幕を開け。思えば初見だった、こんなむごい話だったとは…『鎌倉殿の13人』ですっかりポピュラーな存在になった首桶が、こんな形で使われているとは……。首実検自体は歌舞伎芝居でもよくあるモチーフですが、それにしたってすし桶が! 全部! 首桶に見える! だってホントにすし桶に首隠すんだもん!(泣)
調達してきた小金吾の首をそっと風呂敷から出す歌六丈の演技が圧巻で、観客が「あっ」「ひっ」と息を呑む微かな音がさざなみのようにあちこちから。そう、歌舞伎座にしては珍しく(…)観客の集中力がとても高く、それこそ針一本落ちる音すら聴こえそうなくらいの静寂がそこにはありました。演者のやりとりに目を凝らし、耳を澄ます。その緊張感に、これこれ、これが観劇の醍醐味と静かに興奮しておりました。
それにしても新悟丈もうすぐご結婚(おめでとうございます!)なのにこんな辛い役……。しかし所作と声の良さは素晴らしかった。語らず連れ去られていくその姿には凄みがありました。美しい。
芝翫丈はいがみの権太初役とのこと。いやあ、ホント憎らしい(微笑)。その分最後の告白には感じ入るものがありました。ほだされてしまう情とは、なんて考えてしまったわ。

■『連獅子』
長三郎丈、仔獅子初役。もう10歳かねー。それにしてもこの子大物になるのでは……と思わせられる、見事な仔獅子っぷりでした。
お兄ちゃんの勘太郎丈は(記録に残っている中では)史上最年少の9歳で仔獅子初役を務めたそうですが、身体は長三郎丈の方がひとまわりちいさく見えました。毛振りのときも安全を考慮してか(中村屋は代々そうらしい、とルートさんに教えて頂きました。有難うございます!)、台にはのぼらず舞っていました。
しかし、しかしよ。なんだろうこの堂々とした立ち居振る舞い。なんていうの、親獅子に崖から突き落とされてもその崖の下ですら逞しく生きていけそうな(まあ這い上がってこその仔獅子なんだが)のびのびとした、生命力の塊みたいな、ストリートキッズみたいな……。毛振りのあと、台にダン! と勢いよく跳び乗る、まさに「火の玉」(後述記事参照)。

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02月10日(土)
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