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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『猫と、とうさん』
『猫と、とうさん』@ヒューマントラストシネマ有楽町 シアター2
『猫と、とうさん』ヒトは何故ネコを必要とするのか〜! 人類が滅びればネコ含む動植物にとっていい世の中になるのではと思うこともあるが、自然界で生きられるよう育っていない彼らがいる限りやっぱ人類がなんとか生き延びて世の中を変えないといかんとも思い。こんな社会にしちゃったのが人間だもの pic.twitter.com/lW2o5872m5― kai ☁ (@flower_lens) August 18, 2023
環境破壊してるのってヒトだものねえ。それによって自然災害が増えている。近年頻発している山火事もそう。焼け跡をじっと見る猫ズールーと、焦土と化した山を歩き去る鹿たちのショットが印象に残った。猫は飼い主に守られたけど、鹿たちはあの後どうなったのだろう。
インフルエンサー、エンジニア、ホームレスと彼を気に掛ける警官、消防士、トラック運転手、スタントパフォーマー。そして猫を保護するひとたち、保護猫をひきとるひとたち。アメリカで暮らす男性たち9人を中心に、猫と暮らすことについて、人間が猫を必要とする所以を探していくドキュメンタリー。時は2020年。コロナ禍により分断されていく人間たちの間に猫がいる。
原題は『Cat Daddies』。映画の主旨としては、「男性が猫を愛でることにより、個人と社会にどのような変化が起こるか」なのだろうが、それは結局人間社会全般に行き着く。何故なら今の社会が男性を中心に回っているから。そこで浮かび上がるのは、そうした男性優位の社会に、女性だけでなく男性も疲れてしまっているということ。いつ命を落とすか分からない消防士たちは、「散歩すらストレスになる」。非番に外に出かけたとき、事故や災害に遭遇するかもと考えてしまう。自分の身ではなく、市民たちの安全をまず確保しなければならない。職業柄当然のことなのかも知れないが、この「〜ねばならない」は、男性たちを常に緊張させている。強くあらねばならない、弱みを見せてはならない。それが本編で何度か出てくる“マスキュリン”、“トキシック・マスキュリニティ”という言葉に集約される。
そこで猫ですよ。猫はカチコチに固まった人間の身体と心をやわらかくしてくれる。辛かったら泣いていいし、恐れを隠さなくてもいい。「男性が猫をかわいがるなんて」という風潮は時代とともに薄まり、猫に優しく接する男性たちはその猫のかわいさをSNS等でシェアしていく。顔がほころぶ、頰がゆるむ。そうして人間たちは、お互いに優しくなっていく。
NYの路上でラッキーと名付けた猫と暮らすデヴィッドは、ジョージアから来たといっていた。ジョージア州かと思ったが、アメリカに来た、と字幕にあったので、ジョージア国からの移民なのだろう。長い路上生活により彼は疲れ、傷つき、癌を患っている。野生であることを削がれたイエネコは、外では生きていけない。現代の人間も、外で生きられるようには出来ていない。物理的にも、心理的にも。猫は人間に保護を求めると同時に、孤独な彼に“ラッキー”をもたらす。猫を介して、様々なひとが援助の手を差し伸べる。
撮影が始まったのは2019年後半から。「2020年○月」というテロップが出ると、瞬時に「ああ、コロナがニュースを賑わせ始めた頃だ」「ロックダウンが始まった頃だ」と、当時の感覚を生々しく思い出すことが出来る。コロナの感染拡大により海外での撮影が不可能になり、結果的にアメリカを見つめる内容になった。そしてデヴィッドの入院により、マイ・ホン監督が当初考えていた「軽めの楽しいドキュメンタリー」(パンフレットより)とはかけ離れたものに仕上がった。しかしそれは、被写体を自分の思い通りに動かそうとしなかった結果でもある。監督の誠実さを感じた。
ただでさえ広大な土地を持つアメリカ。“移動”することが制限されたあの時間が人々にどれ程の影響をもたらしたのかを考える。画面で見ていた猫がツアーでやって来る! 1400kmくらいなら近い近い、行っちゃお☆ ってファンがいたという場面には笑ってしまったが、そうしてしまう程の閉塞感を彼らは味わっていたのだろう。疫病が及ぼすものは身体の健康被害だけではないのだ。そして猫は人間に、交流の場を用意する。
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08月18日(金)
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