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by kai
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■『夏、唄う 小林建樹』Tateki Kobayashi Live 2022
『夏、唄う 小林建樹』Tateki Kobayashi Live 2022

4月の『唄う 小林建樹』から、4ヶ月で次が決まるとは。小林さんのライヴを年に二回も聴けるなんてちょっとねえ、寿命が縮むわ。いや伸びるわ。前回同様配信で、会場も前回と同じLive Cafe Eclaircie(ライブカフェ エクレルシ)。この環境がしっくりきたかな? そういえば、以前も8月に『向日葵のころ 間に合うか?小林建樹、多分レコ発ライブ』と題したライヴをやったことがあった。怪しげなタイトルだがちゃんと『Emotion』のリリースに間に合い、無事レコ発を祝ったのだった。夏にライヴをやること自体を気に入っているのかななんて思ったり。喉のケアも冬よりはしやすいのかもしれない。

配信は8月11日。リアタイ出来ず、週末にアーカイヴで鑑賞。期限が切れる18日迄、繰り返し観る。聴く。

近年(といってもどこ迄を近年というのだろう。この方の場合10年前でも近年のような気がする)のソロライヴは、前半ギター、後半ピアノでやっている。前回も今回もそうだった。この構成、とてもいい。楽曲と演奏の良さが剥き身で伝わる。“Two Hands, One Mouth”(スパークスから拝借。小林さんはこれをひとりでやっているのだが)の魅力が際立つ。

初っ端が「SPooN」! 声の通りのいいことにちょっと驚く。光のような鋭さで、耳にすうっと入ってくる。しかも強さがある。ご本人曰く「横隔膜トレーニングを始めた」、そして「キーを下げたんですよ。そしたらすっと唄えるようになって」「地声と裏声の切り替えもいい感じになって」。南こうせつさんや山下達郎さんの例を挙げ、「ずっと元のキーで唄えるひと、すごいなと思うんですけど」。

自分の身体を音楽の乗り物だと考えているのだなあと思った。音楽は時間の芸術。鳴った端から消えていく。身体もいつか消えてなくなる。変化する自身を知り、理想の音楽へ接近する旅を続ける。自分がつくっただいじな曲を、自分の身体でどう鳴らすか。チューニング、調律のようなものだ。

以前『Rare』はつくるとき本当に苦しんで、それを思い出してしまうので唄うのはなかなか……といっていた記憶があるのだが、今回自身を調律した(キーのことだけでなく)ことで、その辺りのナンバーもやってみよう、やれる、と思ったのかもしれない。今回『Rare』からは4曲。「祈り」は定番だが、他の曲は『Rare』ツアー以降聴いた記憶があまりない。何しろ一曲目が「SPooN」だもの、PCの前で「おお!」って声出ちゃった。まさに夏の歌、今回のライヴにぴったりだ。しかも「不思議な夜」も聴けるなんて。当時、いや今も繰り返し聴いている大好きな曲。とてもうれしかった。

最初に聴いた小林さんのアルバムが『Rare』で、怒りと焦燥が滲む不安定なところに惹きつけられた。思い入れがあるアルバムが小林さんにとって辛い思い出になっていることに、ずっと複雑な気分だった。しかし今、それらが当時の魅力を損なうことなく、ポジティヴな響きをもって演奏されている。こんなうれしいことはない。曲はひとつでもひとつではなく、リスナー個人個人の記憶にコミットし、その数だけ拡がっていくということを感じさせてくれるライヴでもあった。はー、言葉はいつも思いに足りない。

エヴァーグリーンな代表曲と近作『Mystery』『Nagareboshi Tracks』からのナンバーもしっくり収まる。困るのは(?)弾き語りが良すぎて元々のアレンジがどんどん上書きされてしまうこと。音源ではブラスアレンジが印象的だった「Twilight Zone」がこんなに弾き語り映えするとは。そしてどんなアレンジでも揺らがないメロディの強度。


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08月12日(金)
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