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by kai
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■『モガディシュ 脱出までの14日間』
『モガディシュ 脱出までの14日間』@新宿ピカデリー シアター10

すすすごすぎた…(語彙)リュ・スンワンの手腕……(韻) #モガディシュ pic.twitter.com/rz97tS2k1W— kai ☁️ (@flower_lens) July 20, 2022
23:30終了のレイトだったけど結構な入りでした。史実と照らし合わせてもう一回観たい。あの本のとことか、どうなの!?

原題『모가디슈(モガディシュ)』、英題『Escape from Mogadishu』。2021年、リュ・スンワン監督作品。脚本は監督とイ・ギチョルの共同。内戦が勃発したソマリアの首都モガディシュから、南北朝鮮の両外交官が協力してケニヤへ脱出する迄を描いた作品です。1991年に起こった実際の出来事。

それはもう臨場感が凄まじく、ホンすごくよく出来てる、演出巧い、ここどうやって撮ってんの(走る4台の車を貫くカメラワーク!)? という見方になりがち(それを逃避という)だったが、きっとそういうことじゃない。作り手の、あのときあの地で起こったことを伝えたいという意志がブレないところがすごいんだ。そこを心に留めて置きたい。以下ネタバレあります。

ロビー活動ってたいへんねえなんてのんびり観ていたのは最初の30分くらいか。非常時に流すテープってのがあるんだな〜と感心するのも束の間、気づけば観客は内戦の地に放り込まれている。いやあ、まだ大丈夫じゃない? 動かない方が安全じゃない? なんて思っているうちに身動き出来なくなるあの感じ、近年の日本では自然災害によって体感しているな……。ましてや携帯なんてものもない90年代初頭。異国で通信が途絶えるその恐怖たるや、想像を絶するものがある。

これだけの規模の映画をつくるとなると、スポンサーやらあらゆるところから要望や圧力が沢山あると思うのです。もっと感動的にとか分かりやすくとか(こんなことを考えてしまうのは、忖度が当たり前になった日本の観客だからだろうか)。ところが筆が滑らない。小道具の使い方が絶妙で、例えば糖尿病患者にとってインシュリンを切らす恐怖は相当深刻なものだと思うが、必要以上に尾を引かない。国際社会へ進出した韓国の象徴でもあるソウル五輪のマスコット・ホドリ(かわいい)がちょこちょこ顔を出すが、そこに余計なエピソードを加味しない。椅子のカバーにプリントされているホドリは背景の一部。北の子がホドリ(かわいい)のぬいぐるみに目を奪われるカットは一瞬。北の国民が外国で仕事に就くとき、必ず国に「家族をひとり残していかなくてはならない」ことの意味は、深追いされない。

銃を持つこどもたち、ドルがものをいう取引。発展途上国の状況にも目を配りつつ、それらの背景を、最低限の映像と音で感じさせる。想像力を喚起する映像が見事。端々に挟まれるユーモアのさじ加減も素晴らしい。

そんななか、国交を断絶し休戦中でもある南北朝鮮の大使が協力することになる。同じ民族なのに、生きている社会が違う。言葉が通じるというのも悲しい皮肉だ。食事のシーンが象徴的だった。箸を使う、食べるものも殆ど変わらない。疑心暗鬼に満ちた空気のなか、ちいさな譲り合いと、ちいさな安堵。心に残るシーンだった。

穏健な大使(南/キム・ユンソク、北/ホ・ジュノ)と野心家の参事官(南/チョ・インソン、北/ク・ギョファン)というキャラクターも魅力的。ここぞというときに必ず何かをやらかす南書記官、チョン・マンシクも憎めない。『1987、ある闘いの真実』で鬼気迫る“赤狩り”を演じたユンソクさんが今回北と協力する役というところにも胸が熱くなりました。そうそう、ユンソクさんの利き手についてのやりとりにはニッコリしちゃった。あれって当て書き? あの会話自体がアドリブ? 実際の大使も左利きだったのかしら。

混乱の国からの脱出、軍用機に一般市民(とはいえ、それは限られた/選ばれた者でもある)が乗る様子は、昨年夏のアフガニスタンを思い起こさせた。本国公開日は2021年7月28日。アフガニスタンからアメリカ軍が撤退したのはその約一ヶ月後だ。今年春の国連総会で、ロシアのウクライナ侵攻をアフリカ諸国が非難しなかったことも記憶に新しい。


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07月20日(水)
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