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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』@TOHOシネマズ新宿 スクリーン6
優れた書き手と目利きの編者、雑誌は世界を伝えてくれる。映画は世界を見せてくれる。フレンチ・ディスパッチ! うえーん pic.twitter.com/lHXSyvkx5D― kai (@flower_lens) January 30, 2022
ウェス・アンダーソンが贈る、ニューヨーカー誌と、フランス映画へのラブレター。始まりは偶然、終わりは必然。生まれたものは必ず死ぬ。死者へ、去る者へ、大いなる敬意と深い愛情を。しかし涙は許されない。創刊者である編集長の、そして編集部の掟は“NO CRYING”なのだ。
編集長の死と遺言により、『フレンチ・ディスパッチ』は廃刊となる。そう、休刊ではない。絶対に覆せない、復活なき廃刊だ。最終号を飾る記事はどんなもの? 編集長がスカウトし、育てた面々が取材へ向かう。ジャーナリスト、エッセイストたちは原稿を書き、校正者は厳密にテキストをチェックし、イラストレーターは雑誌の顔となるカットを描く。記事となる対象の物語、編集長との思い出。雑誌づくりの労苦と幸福が繰り広げられる。
「カンザスから世界を伝えた」雑誌の編集部は、フランスの架空の街にある。アンニュイ=シュール=ブラゼというその街は、ウェス・アンダーソン監督が憧れるフランスの都市の、映画のエッセンスが詰まっている。パリ、アングレーム。ジャック・タチ、ジャン=リュック・ゴダール、レオス・カラックス。それなのに、どう見てもこれは“アンダーソンの映画”だ。
優しい色彩と、シンメトリーを守るライン。スライドしていくカメラ。雑誌にさまざまな判型があるように、スクリーンサイズもスタンダードからシネスコ、そしてまたスタンダードと、几帳面に縦横無尽。雑誌にさまざまな記事があるように、カラー、モノクロ、実写(写真)、アニメ(コミック)とバラエティに富んだ映像。しかし散漫にならず、一本芯が通っているのは、表現したいものがはっきり見えている人物がつくったものだからだ。衣装も、小道具も、何もかも隙がない。哀しみとユーモアに満ちている。作り手の矜持と信念が溢れる、なんて理想的な“雑誌”。
画家と看守の愛。革命家と会計係、エッセイストの愛。父と息子の、署長とシェフの、テネシー・ウィリアムズの面影を持つ記者と編集長の愛。そこには常に愛がある。遠い昔の出来事、そこには愛を贈り合う者たちの一生がある。かつていた場所から去らねばならぬ事情を抱えた孤独な者たちは、愛に触れ、愛を知り、バトンのように愛を運ぶ。今では連帯といわれるのだろうが、ここでは愛と呼んでおきたい。
お気に入りは第1章「確固たる(コンクリートの)名作」。タイトルからしてもう好き。“(コンクリートの)”は“確固たる”のルビとして配置されている。「The Concrete Masterpiece」という原題をこの邦題にした翻訳チームにも拍手。
「かつて濃密な時間を過ごしたが、二度と会うことがなかったふたり」という設定にも、アートをめぐる皮肉にも、“名作”の終着点にも。最初から最後迄魅せられっぱなしだった。あの場所はマーファのThe Chinati Foundationをイメージしているのだろうか? アンダーソン監督はヒューストン出身だし……となんとなく調べてみたら、同じテキサスでもマーファとヒューストンは
01月30日(日)
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