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by kai
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■『ユンヒへ』
『ユンヒへ』@シネマート新宿 スクリーン1

しみじみよかった……映画館を出て電車に乗って、顔を上げたら目の前に小樽洋菓子店ルタオの紙袋持ってるひとがいて思わずにっこり #ユンヒへ #윤희에게 pic.twitter.com/0fKTd1fPBS― kai ☁ (@flower_lens) January 10, 2022
南国生まれ(盆地だったので毎年雪が降るところではありましたが。霜柱をザクザク踏んで登校するのが好きでした)なので北の大地には憧れがあるのよ……。パンフレットにロケ地マップが載っていた。小樽行きたい小樽、ロケ地巡りたい〜。「寒い」といわれていたゲストハウスは、実際には暖房完備で暖かいそうですよ!(笑)

とはいえ、この作品の雪は美しいだけではない。抑圧の象徴でもありました。

原題『윤희에게(ユニへ)』、英題『Moonlit Winter』。2019年、イム・デヒョン監督作品。2020年の大阪韓国映画祭で上映されたときは邦題も『ユニへ』だったそうですが、パンフレットによると監督の「発音ではなく漢字で表記した際の意味に忠実でありたい」という意向から改めて『ユンヒへ』という邦題にしたとのこと。ユンヒの漢字表記は「潤熙」。「ジュン」と同音である「潤」を含み、ふたりの繋がりを感じさせるものです。

「私は伯母と小樽で暮らしているの」。ジュンが出せずにいたユンヒ宛の手紙を投函した伯母マサコ、届いたその手紙をこっそり開封し読んだ娘セボム。彼女たちにそっと背中を押され、二十年の間動けずにいたふたりの女性が歩き出します。

手紙の文面、繰り返される「雪はいつやむのかしら」という言葉。登場人物たちが吸うタバコ(これだけ喫煙シーンがある映画、近年では珍しい)、リメイクした手袋。修理したカメラは現像を必要とし、被写体を目にするには手間と時間がかかる。クスッと笑ってしまう程綺麗に筋が取られたみかんには会話を切り出す迄の逡巡を、理由を告げずハグをしようという提案にはずっと見守ってきた時間を。台詞にも、小道具ひとつにも、作り手の繊細で優しい視線がありました。

大学進学が許されず、働いていた食堂を辞め、兄に「学もないのにどうするんだ」といわれてしまうユンヒ。一方ジュンは獣医として働き、不自由のない暮らしをしているように見えるが、「母親が韓国人であることを隠さないでいいことは何もなかった」と打ち明ける。ジュンの伯母が営む「オーバーロード」という喫茶店名は、ふたり(恐らく伯母も)が被ってきた負荷と抑圧を思わせる。寒さは厳しく、掻いても振り払っても、雪は過酷に降り続く。

それでも彼女たちと、彼女たちの周りにいる男性たちは少しずつ前進している。ジュンに男性を紹介しようとしたリュウスケは自分の無礼に気付き、きちんと謝る。打ち捨てられたものに価値を見出し“リメイク”するギョンスは、常にセボムの行動を尊重する。「新しい春」を意味する名を持つセボム(새봄)と、現代の韓国では生きづらい男性かもしれないギョンス。このふたりを前に、ユンヒは再び写真を撮るようになる。フィルムを保管する場所としての「セルロイド・クローゼット」には、差別を受けるものたちが避難する場所という意味も持つ。

ユンヒの元夫は少し不憫ではあった。彼をユンヒに紹介した兄はユンヒのことを理解出来なかったが、この元夫はユンヒがレズビアンだということにも気付いていないのではないか。抑圧は続き、無理解は無くならない。しかし存在を透明にされることは少しずつ減ってきている。時代は変わる。この作品が本国で誇りを持って「クィア映画」と呼ばれていることに光を見る。

ユンヒ役のキム・ヒエさんとジュン役の中村優子さんのおふたりは勿論、娘セボム役のキム・ソへさんも、伯母マサコ役の木野花さんも素晴らしい演技。チームイキウメ(と勝手に呼んでる)瀧内公美さんと薬丸翔くんもいい仕事してらしてニコニコ。女優陣は揃ってチーム吉住モータース! 何げに舞台でよく知る方々も出演しており(後述)うれしくなりました。ギョンス役のソン・ユビンもよかったな。調べてみたら『王の涙』や『神と共に 第一章:罪と罰』にも出ているじゃないの〜、今後チェックしとこう。


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01月10日(月)
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