ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『九月大歌舞伎』第三部
『九月大歌舞伎』第三部@歌舞伎座
仁左衛門丈と玉三郎丈の伊右衛門とお岩が観られるとは。38年ぶりだそうです。四谷町伊右衛門浪宅の場から本所砂村隠亡堀の場迄なので「ええ、ここで?」てなとこで終わるんだけど(微笑)めちゃめちゃ濃密でした。 #東海道四谷怪談 pic.twitter.com/jaC7oYzCc3— kai くもり (@flower_lens) September 4, 2021
先月の『仇ゆめ』に続き夢が叶……というより、観られるとは夢にも思っていなかった。キャパ50%で発売のチケットは全席完売。100%でも即完していただろうと思います。観られたことにひたすら感謝。
「四谷町伊右衛門浪宅の場」「伊藤喜兵衛内の場」「元の浪宅の場」「本所砂村隠亡堀の場」の四場。お岩を追い出しにかかった伊右衛門が狼藉の限りを尽くし、お岩が亡くなりお梅と喜兵衛も死に、自分も死んだってことにして逃げた伊右衛門が全然懲りてないとこ迄ですね。釣りなんかしちゃってさ。うなぎかきんとこです。
……なんかこう書くと、というか観る度思うが、つくづく伊右衛門ってクズですね。クズ過ぎてしみじみしてしまうわ。場としてはこっからお岩の反撃(といっていいのか)が本格的になるのに! 伊右衛門まだ全然ダメージ喰らってないじゃーん! いや、結構落ちぶれてるけどまだまだだね! などととても歯がゆい(笑)。ほんとにほんとに憎らしくて、しかも人間がちぃせえなー!(だって蚊帳迄持ってく!?)と軽蔑もし、場面によっては拍手もしたくなくなるくらい憎らしい伊右衛門でした。仁左衛門さんすごいわあ。褒めてる。褒めてます。見目麗しいことこの上ないですし。色悪、色悪ね……色悪ですよ……。喜兵衛に実はあれ毒なんですっていわれるところと、自分の卒塔婆を見る場面の迷いには流石に唸る。唸りたくないけど。いや、役に対してですよ!(しつこい)仁左衛門さんで「首が飛んでも動いてみせるわ」が聴け、感極まる。
あとこれも毎回思うが、孫に甘い金持ちのじいさんってのは本当にどうしようもないというのがよく判りますよね…亀蔵さんよ……いや、これも役ですからね。
玉三郎さんのお岩が圧巻です。襖がパンと開き、赤子を抱いたお岩が現れたときの気というか貫禄というか、オーラの凄まじさ。一瞬息を呑んだ客席から、割れんばかりの拍手が巻き起こる。顔、声、姿、所作。目が離せない。ひとことも、いや、言葉だけでなく衣擦れの音すら聴き逃すまいと耳をすます。手ぬぐいの扱いが一級品。涙を拭く、汗を拭く、薬を呑んで口元をおさえる、痛み出した顔をおさえる、それをしまう。武士の娘の気高さ、こどもへの愛情、伊右衛門に裏切られた無念。慈しみ、怒り、悲しみが所作で表現される。鉄漿つけ、髪梳きの場面で静まり返る場内。いや、お岩がいる場面にはずっと静寂が続いていた。客席からは身じろぎの音すらしない。観客が役者の力、演技の力に惹きつけられている証左。
ケレンは抑えめ。戸板返しや人魂はありますが、ねずみの活躍(赤子連れ去るとことお守り持っていくとこ)や小平の「薬くだせえ」の指ブラブラ等に大きな仕掛けはありません。静かで昏い舞台は、これから起こることを思わせ恐ろしい。作品と役者の力を思い知る、やはり傑作、やはり名優。
松之助さんの宅悦は上品で素敵。直助の松緑さん、もっと観たかったです。橋之助くんの小平は健気で一途でかわいらしく、それだけにその死が哀れを誘う。与茂七もちょっとだけ(何せあそこで終わるから)観られてうれしかったです。そうそう、幕切れのだんまりでは玉三郎さんのお花も観られます。無念のなか死んでいった苦悶のお岩ではなく、美しいお花の姿を最後に見せてくれたことにちょっとだけホッとしたのでした。
しかし、しかし、こんなものを見せられてしまっては。通しが観たくなりますね……。お岩さんを演じた最年長の役者さんって誰だろう、今回の玉三郎さんだろうか?『東海道四谷怪談』には少なくとも四つの大仕掛けがあり(後述)体力がいる役だと思うのでご無理はとは思うものの、今回のお岩を見てしまっては……。いやいや今はただ、今回観られたことに感謝します。
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09月04日(土)
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