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by kai
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■さいたまネクスト・シアター最終公演『雨花のけもの』
さいたまネクスト・シアター最終公演『雨花のけもの』@彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

ネクストシアターにお別れを。旗揚げから最終公演迄、全ての作品を観ることが出来た数少ない劇団。見届けられてよかった、これからも皆さまのご活躍を楽しみにしております! #さいたまネクストシアター #雨花のけもの pic.twitter.com/GwJNuATvTI― kai くもり (@flower_lens) August 14, 2021
そぼ降る雨を噛みしめるように、さい芸のへの道を歩く。雨の日に観られてよかった。『真田風雲録』で、泥まみれの役者たちを応援するような気持ちで観たのがついこのあいだのよう。約12年、干支もひとまわり。

ネクストシアターとゴールドシアターの活動が年内で終了するというニュースを知ったとき、どこかで納得している部分はあった。ゴールドに関しては、縁起でもないことだが劇団員の「残り時間」がそう長くなく、舞台に立つ、舞台で語るということ自体も危ういことを感じられていたからだ。公に発表されることはないが、公演の度にメンバーの数が減っていくことからもそれは明らかだった。蜷川幸雄の主導で始まった集団でもあるし維持が難しいのだろう、芸術監督が交替するタイミングでもあるし、とは思った。コロナ禍の影響もあるだろう。

しかし、ゴールドと菅原直樹とのコラボレーション(『よみちにひはくれない』)では「こういうやり方もある」という手応えを感じたし、ネクストに関しては、メンバーたちが積極的に公演の企画を持ち込んでいたことが伝わってきていた。そして、それらの公演がどれも出色の出来だった。小川絵梨子と初タッグを組んだ『作者を探す六人の登場人物』の記憶も新しい。蜷川幸雄の庇護がなくとも、前進していけるのではないかと思っていた。活動停止は正直にいうと悔しい。バンドではないが、このメンバーでしか起こり得ない「ケミストリー」を持つ集団だった。

ネクストシアターの最終公演は、集大成と呼ぶにふさわしい作品になった。数々の古典/名作を通して身のこなし、声の出し方、会話の強弱、間合いと舞台での居ずまいを体得していく彼らを目の当たりに出来たことはこの上ない幸運だった。一朝一夕に出来ることではないのだ。成長した彼らが初めて自分たちのために書き下ろされた作品を、岩松了の演出で上演するとどうなるか、ということを最後に目撃出来たこともうれしかった。

今回の作家・細川洋平が岩松さんとどういうやりとりをして今作を書きあげたのかは想像するしかないが、極めて岩松色を感じる物語だった。居心地の悪い会話、不在の人物が及ぼす影響力、登場人物たちが常に抱えている負い目。水(雨、雪)と階段の存在。チェーホフからの引用。『薄い桃色のかたまり』が桜の花びらのことだったように、宙を舞う綿ぼこりは「ぽよぽよ」という単語で描かれ、雪へと姿を変えていく。そして、目にすることがない惨事(これは演出によっていかようにも表現出来るが)。

不在の「ペット」によると思われる「声」。使用人の声。「がんばれ」「生きろ」、「できそこねえめが!」がまっすぐに届く。破滅に気づかない人物、気づかないふりをしている人物を横目に、ペットたちは外の世界へと駆け出していく。破滅の淵に立つ人物は、ペットに名前を贈る。そしてその場面は舞台上に提示されず、ペットの言葉により明らかになる。不器用で、愚かな、でも愛おしい人間。できそこないの登場人物たちは人間そのものであり、それはつまり、自分のことだ。パドックから出たペットたちへのメッセージは、そのまま自分の心に突き刺さる。


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08月14日(土)
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