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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『mid90s ミッドナインティーズ』
『mid90s ミッドナインティーズ』@新宿ピカデリー スクリーン3
数年前、90年代を描いたジョナ・ヒル初監督作にトレントとアティカスが参加、というニュースを読んだときはなんだそりゃ懐古? とか思って悪かった……誰もがいつか振り返る痛みに満ちた青春映画だった。うー、うー#mid90s pic.twitter.com/quEuNzrpmA― kai (@flower_lens) September 10, 2020
二度と戻りたくないグローリーデイズ。
90年代のLAストリート/スケートカルチャーを中心に描かれる、迷える十代。大人の世界に足を踏み込もうとする少年の瞳には輝かしい未来が見えるか? そのときその場所でしかシェア出来ない、痛みと喜びに満ちた季節。
部屋のポスターを張り替える。キャラクターもののTシャツを脱ぐ。タバコ(ハッパ?)の臭いを消すためにめっちゃスプレーかける(笑)、何度も練習した技が初めてキマる。憧れのコミュニティに加わりたいという思いに虚勢が加わると、取り返しのつかないことになる。そうして人生をだいなしにする子は沢山いる、という苦さもしっかり描いている。それを「クール」だと自分にいいきかせる虚しさも直視してる。
極力説明が少ないのがいい。お母さんの若さ、傍若無人に見えるお兄ちゃん、嘘をつくともだち。あんなに殴って殴られても、兄弟は一緒にゲームをする。憧れの兄貴分には悲しい思い出がある。皆が現状から抜け出そうともがいている。と同時に、自分以外の誰かに光がさすことを許せない自分もいて、そんな自分がまた許せない。振り向いてほしくて無茶をする。変わっていくともだちをどうすることも出来ない。戸惑いが疑心暗鬼へと膨らんで、ある出来事で爆発する。
どの登場人物にも自分がいるというか(あ、レイはいないかも知れないな…いい子だよね……)、主人公にもお兄ちゃんにもお母さんにもこんな自分いたよなあと。お母さん、あのシーンであの言葉が出た(よくいえたなあと胸が熱くなった)のは彼らにかつての自分の姿を見たからかもしれない。いちばんノロマだと思われていたフォースグレードの才能が迸るラストシーンが苦くて甘い。彼は黙っているが、誰よりもともだちの姿をしっかり見ていた。そしてその大切なともだちが輝く瞬間を、逃さず捉えていたのだ。あのなかには笑顔しかない。観客が最後に目にするのが、あんな幸福な時間だなんて。戻りたくはないけど、かけがえのない日々。
90年代の悪ガキが大人になるというストーリーは、先日『Beastie Boys Story』で目にしたばかり。彼らはビースティのようになれるかな。よりにもよって、そのビースティの曲がとある理由(後述)で使えなかったというエピソードに苦笑。
さて、冒頭のツイートにあるように、この映画を観に行ったのは「90年代を描いた映画の音楽をトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手がける」というニュースがきっかけでした。果たしてその仕上がりは、トレント&アッティカスの劇伴に加え、90年代のアメリカ──とは限らないな、なんたってMorrissey「We'll Let You Know」が入ってますからね!──のヒットナンバーからあんな曲こんな曲がつめこまれているものでした。もうエモくもなるっちゅうねん。序盤のお兄ちゃんのお誕生会、レストランのBGMとして流れてきたのがSEALの「Kiss from a Rose」でしたからね……ちょ、いきなり! どれだけ聴いたか! もうこの時点でエモが全開になってしまいましたよね……このシーンがまたせつなくてさあ。お兄ちゃんもっと弟に優しくして! なかよくして! と胸がかきむしられる思いでした。で、ここがあるから終盤のシーンでまた胸をかきむしられるんですよね……ジョナ・ヒル監督、ニクいことする……。そして劇伴は苦くて甘くて不穏で温かい。トレントはピアノの子やねえとしみじみしました。
ちなみに今作のサウンドトラックというのがイマドキで、劇伴の4曲はデジタル配信、その他の楽曲はSpotifyのプレイリストとして公開されています。はあ、聴くとあのシーンこのシーンを思い出して涙目。かつて聴いていた曲がこんなふうに新しい感覚を呼び覚ましてくれるなんてうれしいな。音楽はやっぱりいきものだ。
・mid90s┃Spotify
・Mid90s (2018) Soundtrack - Complete List of Songs┃WhatSong
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09月10日(木)
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