ID:43818
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by kai
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■南極探検いろいろ その3『その犬の名を誰も知らない』
『その犬の名を誰も知らない』
『その犬の名を誰も知らない』読了。昭和基地に取り残された幼いタロとジロを守り導いた第三の犬がいた。その犬は誰だったか、何故記録が殆ど残っていないのか。第一次南極越冬隊員最後の生き残りである北村氏の証言と、膨大な資料検証によるノンフィクション。その犬は、あの犬だったよ…表情悲しい pic.twitter.com/c2ParGN98G― kai (@flower_lens) July 31, 2020
映画『南極物語』(1983年)やドラマ『南極大陸』(2011年)を観ていたら、きっと誰でも思いあたる。推測はされていたが確証がなかった、その犬の名が明かされる。
なんだかそろそろタロ、ジロのことを知らない子もいるような気もするので概要を書いておきますね。1957年、日本南極観測第一次越冬隊とともに、十八頭のカラフト犬が南極に渡ります。犬たちはソリをひき、隊員たちをサポート。故障した雪上車の代わりも務め大活躍します。翌年2月、引き続き南極で働く犬たちを昭和基地に係留し、任務を終えた一次隊は観測船「宗谷」へ戻ります。ところが想定外の悪天候に見舞われ、日本からやってきた二次隊の越冬計画は中止に。そのまま全員「宗谷」で帰国するようにとの命令が下り、犬たちは置き去りにされてしまいます。誰もが犬たちの生存を諦めていた1959年1月、越冬計画を再開するべく南極へ向かった三次隊員が基地の近くにいる犬を発見。その二頭、タロとジロのニュースに日本中が大騒ぎになります。
こうして書くともう随分前のことなのだなあ。インターネットは勿論、テレビもまだ普及していない。ニュースは主にラジオから。急ぎの連絡は電報が主。終戦から12年しか経っていないのに、南極観測隊を派遣するという一大事業には随分と批判も多かったそうだ。カラフト犬たちも、家庭でかわいがられていたり、働き手(当時カラフト犬は荷物をひく使役犬として重宝されていた)として飼われていたのを引き取ってきた寄せ集め。極寒地で生息する犬とはいえ、それが南極ともなると過酷さも段違い。そんななか、タロとジロはどうやって生き延びたのか? 様々な憶測が飛び交うなか、「第三の犬」の存在が浮かびあがる。「第三の犬」はこれ迄、映画やドラマといったさまざまな創作物に、若いタロとジロを守る存在としてしばしば登場していた。
構成が巧い。読み始める前「あの犬だよなあきっと」と本を開くと、カラフト犬一覧が写真付きで載っている。「死亡」「行方不明」「生存」と分類されており、「生存」欄に既に三頭いる。あれ? この犬なの? 次に、本書の監修者であり一次越冬隊員中ただひとりご存命の、北村泰一氏による証言。最後に、その証言と資料を照らし合わせての検証となります。読み進めていくうち、「生存」欄に載っていたその犬、シロ子は取り残されずに連れて帰ってもらえたペット犬だとわかる。タロ、ジロと一緒に載っているのでここはちょっと引っ掛けですよね(笑)。なあんだ、じゃあやっぱりあの犬でしょ! と読み進めるんだけど、まあこれが焦らされる焦らされる。慎重に検証してるから当然なのですが。終盤「その犬」は「彼」と呼ばれるようになってくる。「タロ、ジロのそばには必ず彼がいた」「残っているのは、彼だけです」…なんか『銀牙』めいてきたわ……「誰よ彼って! 彼でしょ、もおお!」とすっかり書き手のペースにハマってしまう。
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08月06日(木)
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