ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』@新宿ピカデリー スクリーン7

『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』三宅純さんが音楽ということで観に行ったんだけど(実際音楽は堪能した)ドンデンドンデンの展開、出版とは、翻訳とは、商業的成功とはってところもヒリヒリくる作品でした。思わぬところで日本の立ち位置も見られてニヤニヤ pic.twitter.com/5uodK37hYP― kai (@flower_lens) January 25, 2020
いやあ、これはめっけもんでした。三宅さんに感謝! 「誤読」に振り回される緊張と快感、エンドテーマが流れて初めて自分の身体がガチガチになっていたことに気付く。それだけ夢中になって観ていたんですね。

『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズで有名なダン・ブラウンの『インフェルノ』を出版する際、本当にあった出来事が物語の発想となっているそうです。世界同時出版という使命のもと、招聘された翻訳者たちが監禁下で仕事に励む。外出は禁止され、外部との接触も禁じられ、警備員は銃すら持っている。日本版は半年遅れての出版だったので、翻訳者は監禁を免れたそうです。シェー。

ここでちょっと興味深かったのは、今作で招かれた翻訳者というのが「シリーズの売上部数が多かった順」だったんですね。原語はフランス語。集まったのはロシア語、イタリア語、デンマーク語、スペイン語、英語、ドイツ語、中国語、ポルトガル語、ギリシャ語(プログラム表記順。具体的な国別売上部数は本編には出てきません)の翻訳者。日本語は入らない。そして思わぬところで日本製品が活躍します。ヘンなところで至極納得、そしてこの日本製品への信用と実績もいつ迄続くことか……思わぬところで考え込んでしまいました。

そしてインターネットにより形成されるファンダムにも身に覚えがある。「自分(たち)の方が作品への理解と愛がある、あの翻訳者(出版社)はわかってない」という勢力です。「あの出版社は話題作りと金儲けにしか興味がない」「今迄の担当翻訳者をひきずりおろせ、こいつの方がふさわしい」。確かにそうした側面はある。これこそが「誤読」へのフックになります。「作品をいちばん理解しているのは自分」という思いの強さは、沢山の案件を抱える職業翻訳者とは違う。素人の情熱はときに暴走する……という、これも「誤読」。真実を手にしている者は誰か? 最後の最後迄それが判らない。たまったもんじゃないし、巻き込まれたひとたちはエラい災難です。現実をつきつけられてしまったデンマーク語の翻訳者なんて完全にもらい事故。寂しさが募ります。言葉にとりつかれた者たちの行方を追うような気持ちでした。

多言語のプロフェッショナルである翻訳者たち。複数の言語を理解出来る、その理解出来る言語が各々違うというところから互いへの疑念が膨らみ、ときにはそれが互いへの助けとなる。ゲルマン系言語(英、ドイツ、デンマーク)、ラテン系言語(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)の親和性への着目も面白い。ちょっと調べてみたけど、ギリシャ語は単独語派なんですね。うぬう、興味深い。スタイリッシュな撮影と編集はミステリにぴったり。9人の翻訳者が勢揃いしたポーズの瞬間に入るタイトル、逮捕され囚われている人物が逆転するカメラワーク、“ベストセラー”のアートワーク。そして音楽、堪能しました。映画を観る前に読んだインタヴューで三宅さんが話していた「とある既存の曲」はBurt Bacharachの「What The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)」、歌詞はHal David。皆がポツポツと唄うあのシーン、とても素敵だった。翻訳者たちのひとときの幸せ、矜持にもとれた。

What the world needs now,
Is love, sweet love,
No, not just for some oh but just for every, every, everyone.

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・日本版予告


・フランス版予告


夜の街に出たら「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」の街頭広告が始まっていた。
今日見ただけで4パターンもある。こんなにキャンペーンに力が入ってるとは思っていなくてびっくり。
日本先行で24日公開、フランスでは29日からの公開です! pic.twitter.com/ygMTD1Medp― Jun Miyake /三宅純 (@jun_miyake) January 22, 2020

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