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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■イキウメ『獣の柱』
イキウメ『獣の柱』@シアタートラム

『獣の柱 まとめ*図書館的人生』から6年……ろくねん?! 2年くらい前の気分だったよ! 遠い昔のことのような、ついこないだのような。社会情勢含め、演じる側も観る側もどんどん変容していくなか、作品が変わっていくのはごく自然なことのように思う。以下ネタバレあります。

というわけで事前にアナウンスがあったように、むっちゃ改定されていました。しかし今観るととてもしっくりくる。狩猟民族だった人類は、農耕民族になることで定住を手に入れた。この物語は農耕民族、ひいては人類のその先を描いているようにも思える。彼らは定住することをやめ、再び移動することを選ぶ。こうして人類は絶滅への道を少し遠ざけ、やがて新しい世代が生まれてくる。彼らは「進化」ともいえるものを手にしている。「適応」といってもいい。人類はゆっくりと進化する。少しずつ前進する。そう考えるとちょっと楽観的になる、途方に暮れるけど。人間に寿命があってよかったなあ。

6年前と大きく違うのは、池田成志演じる「町長」の不在。指示を仰がれ、決断を迫られるという立場の人間がいない。より個人主義になっている。個人はコミュニティを離れ、移動して生きる。そしてまたコミュニティが出来る。聖書の引用があるが、安井順平演じる農家と村川絵梨演じる作家は、福音を伝え歩くevangelistになったともいえる。6年前から深刻さは増したが、やはり「農業最強!」だ。養殖も、畜産もそうだろう。生きる術を伝道していくふたりの存在は(孫から語られたその最期を知っても)ある意味救いにも思えた。希望といってもいい。

信仰を持つ人々が集まり宗教となる過程、理不尽な出来事にひとはどうやって対処していくかの仕組み。ああだこうだと話して結論が出ない、しかしどの言葉にも肯定がある。イキウメはこういう台詞のやりとりが練りに練られており、いつ迄でも聴いていられそうなくらい楽しい。これは鍛え抜かれた(といっていいんじゃないだろうか)演者が揃うからでもあって、イキウメの芝居に出ているひとで「このひと合ってないなあ、トーンにしてもリズムにしても」と思うひとっていませんわ。出演者の半数以上が複数の役を演じ、時間と空間の転換はシームレス。にも関わらず観ていて混乱しない。演劇の醍醐味だ。

浜田信也は市井のカリスマとでもいうような、近寄りがたい親しみやすさという矛盾を軽々と演じる。ごく平凡な市役所職員がある種の啓示を受けたときどうなるのか、その圧に心身がどう反応するのか。それを演技とは思えないレベルで見せてくれた。怖い、と思わせてくれる役者さんってそうはいない。薬丸翔は浜田さんとも共通する透明感のある役者さんですね。初めて観たのが昨年末のカタルシツ演芸会『CO.JP』だったもんだから今回の役との振り幅に驚かされましたよ……イキウメンの資質ありありですわ。またコントでも観たいです。

ところで終演後当日パンフレットを見たら、薬丸さんの役名「しまただし」の表記は「島忠」だった。音声だけだと気づかなかったけど、ホームセンターの島忠じゃないか。人々の暮らしに役に立つ島忠。意図的かどうか、ダジャレか(笑)どっちだ。

一年前に上演された、『グッド・デス・バイブレーション考』の世界に柱が出現したらどうなるだろう? なんてことも考えた。ディストピアを描く作品にもさまざまなカラーがあるが、松井周と前川知大、そして岩井秀人にはある種の共通点があるように思う。絶望をカラッとした笑いに転じることで、「生きる」ことを否定しない。イキウメもハイバイも、改定を繰り返し乍ら数々の代表作を再演する。岩井さんはevangelistよろしく各地へ(外国へも)足を運び、松井さんはサンプルの看板を背負い積極的に越境する。前川さんは劇団の文芸部やドラマターグと議論を交わし、聖書を編纂するかのごとく台本を書く。ふと思う、イキウメで『狭き門より入れ』を再演出来ないかな。「世界」に何をされるか分からない今こそ観てみたいな。
05月18日(土)
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