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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『金子文子と朴烈』
『金子文子と朴烈』@シアター・イメージフォーラム シアター2
星新一の言葉を思い出す。「われわれが過去から受けつぐべきものはペーソスで、 未来に目指すべきはユーモア。」
月曜日、『Touch that Sound!』の前に観ました。原題は『박열(パク・ヨル(朴烈))』、英題は『Anarchist from Colony』。2017年、イ・ジュンイク監督作品。1923年、関東大震災に紛れて多くのひとが虐殺されたことはよく知られているが、と、近年ではそうもいえなくなってきた。以前松井周が「歴史って嘘なんじゃないかと思う。当時を知っているひとがいなくなり、文書が信用できるかというとそんなことはない」と話していたが、そのことを実感する。いくらでもなかったことに出来るし、いくらでもあったことに出来る。
興味を持ったのは甘粕正彦が登場した映画『ラストエンペラー』からで、その後アナキストたちの物語として『美しきものの伝説』や『走りながら眠れ』(ここで引用しているが、「朴烈夫婦」は大杉栄と接点があった)などの舞台作品で観ている。その全てが史実を元にしているが、史実通りではない。今回観た『金子文子〜』もそうだ。
では、今作の「史実通りではない」箇所は、どういう狙いでそうなったのか。多くは「そうだったらいいのに」という願い。そして、過去のペーソスを未来のユーモアへと繋げるためだ。日本人 VS 朝鮮人といった未来にならないように。過去の出来事を未来に伝えるために。それを忘れないために、それをなかったことにしないために。
そして葬られた出来事に目を向ける。宇都宮に移送されてからの三ヶ月、彼女に何が起こったのか。北朝鮮に捕らえられてからの二十四年、彼は何をしていたのか。そのことを忘れてはいけない、考え続けていかなければ。なかったことにしてはいけない。そして、決して繰り返してはならない。当時を知らない者ですら、当時に近づいているというある種の空気を感じる現代に必要なもの。
それにしてもキャストが魅力的だった。金子文子を演じたチェ・ヒソ、朴烈を演じたイ・ジェフン! ヒソさんは金子という存在を現代に甦らせた。実体というか、体温を感じさせる。あの時代、彼女は確かに生きていたのだ、と感じさせてくれる。悠然としていて、芯のある声。穏やかでいて、熱のある瞳。彼女がいなければこの映画は撮れなかっただろう、と迄思わされる。そしてジェフンさんて『建築学概論』(おお公式サイトまだある!)のあの子だったのーッとなりましたよね。あのフワフワした子が! 歳とったらオム・テウンになるのねー(いろいろ混同)。オープニングの汗と泥にまみれた背中のショット、初めてその顔がスクリーンに映った瞬間。鮮烈。
顔といえば、キャストの皆さん顔力が強い方ばかりで。悪役をほぼ一身に背負った内務大臣役のキム・インウも、弁護士役の山野内扶も忘れられない面構え。裁判長は舞台好きにはおなじみ金守珍。予備尋問を行った検事役のキム・ジュンハンはイ・ジョンジェと同系統の顔立ち、物腰でたいそう気になりました。これからもいろいろな作品で観てみたい。調べてみたら『軍艦島』に出てるんだよねー。これも日本公開してほしいが…ツインが仕入れ済みって報道あったんだけどな……待ってるんだけど……。『金子文子〜』が公開されたのは奇跡だ、こんな映画は日本人には撮れないといわれる時代なのだ、今は。こういうふうに、過去のいろんなことがなかったことにされてしまったのだなあ、と思う。
冒頭に戻る。そうそう、星新一といえば五月末に韓国のプロダクションで『ボッコちゃん』が上演されるんです。ペーソスとユーモアがどう表現されるか、とても楽しみ。
守珍さんを観たせいか、金久美子さんのことも思い出してしまったな。亡くなって今年で十五年になる。彼女にもこの映画を観てほしかったな。
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・金子文子と朴烈┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております〜。
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03月20日(水)
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