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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■東京芸術祭 2018『野外劇 三文オペラ』
東京芸術祭 2018『野外劇 三文オペラ』@池袋西口公園
IWGPにて『野外劇 三文オペラ』。池袋の雑踏を借景に、ビックビックビックビックカメラ♪や救急車のサイレンをBGMに。エリア外の喫煙所にも見物人がわらわら、文化庁印の催しでこの演目というのにもニヤニヤ。そして重機に乗りたくなります。楽しゅうございました pic.twitter.com/r90FNtBqCN— kai (@flower_lens) October 24, 2018
開演時間が過ぎ、照明がおち、観客が静まる。少し遠く、それでもすぐ近くの街のノイズに心地よく耳を傾けていると、ボロをまとった登場人物たちが騒々しく現れる。一瞬ホントに乱入者が? と思ってしまうガラの悪さ、すぐ傍だったから一瞬ビビる。やがて彼らの動きが統率されたダンスへと変化していき、ピアノの音が聴こえてくる。そしてはじまる「Mack The Knife」……ツカミはOK、開幕です。
演出はイタリアのジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ。視覚聴覚ともにノイズの多い野外での公演を見据え、観客の集中力が切れないようにとの配慮か1シーン1フックというくらい手数が多い。サービス満点で退屈しません。舞台の奥行きが異様にある(笑・公園だもの)ので、観客がいる位置からどのくらい離れたら芝居が届かなくなるかの検証はかなりやったのではないかな。遠くでスタンバイ中の重機の運転手さんの動きに「くるぞくるぞショベルカー♪」とすっかり注意がいってしまったりもしましたが、まあそれもお楽しみ。大岡淳による新訳は五七調からワルそうな奴は大体友達なHIPHOP迄歯切れよく威勢よく。ノイズの多い野外なうえマイクが切れるアクシデント(歌のシーンじゃなくてよかった。ベッドでドタバタする際接触が悪くなっちゃったって経緯にご愛嬌)があっても台詞がパキッと聴きとれる、演者の力量も貢献度大。
野外劇ならではのハッタリもダイナミック。設営用だと思って入場時は気にしていなかったショベルカーが劇中バンバン使われたのには笑った。紙吹雪をまいたり絞首台がわりになったり。クルマもバイクも行ったり来たり、小道具にはiPad、軽トラが水戸ナンバー、原付は足立ナンバー、ケンドリック・ラマーなんてワードも飛び出してニッコリ。トラックに設営されたスクリーンにはWeirdcoreみたいな映像も。悪趣味だなあと笑いつつ、娼婦たちの顔に傷が増えていくエフェクトにはしっかり怒りが込められていてガッツポーズ。したたかに生きる市井のひとびと、彼らを圧迫し翻弄する政治、しのびよる戦争の足音。現実と地続きのストーリーは、作品の普遍性と現在性を同時に感じさせてどうにも苦い。それでも笑って逃げのびるか、怒りをもって闘うか。どちらにふれるかは自分次第。
これ迄も演劇公演の場としても使われていたこの公園。来年野外劇場として本格的に再開発される(・池袋西口公園 人気ドラマの舞台、再開発で野外劇場に┃毎日新聞)ので、その前哨戦ともいえるでしょうか。本作の総合ディレクター宮城聰は「劇場を飛び出し、池袋西口公園で、囲いさえ作らずに上演します」と話していました。
しかし実際は難しかった様子。宮城さんが芸術総監督を務めるSPAC(静岡県舞台芸術センター)には野外劇場がありますが、同じ野外でも設備と環境が揃った劇場ともともとある空間を街ごと劇場として機能させることは別物。公園と外部の境界には多少の衝立がありました。制作側としては、演者と観客の安全を守らねばなりません。あまりにひとが集まってしまうと、交通にも支障をきたしてしまう。公共施設を使っての上演でもありますし、難しい判断だったと思います。観客以外のひとびとを惹きつけ巻き込みつつ、不測の事態が起きたときの対処も考慮に入れ、作品の猥雑性を損じることなく、秩序も守らねばならない。先月観た『BED』同様、作り手はさぞ腐心したことだろうなと感謝の念。
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10月24日(水)
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