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by kai
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■『1987、ある闘いの真実』
『1987、ある闘いの真実』@シネマート新宿 スクリーン1

原題は『1987』、英題は『1987:When the Day Comes』。2017年、チャン・ジュナン監督作品。『タクシー運転手』で描かれた「光州事件」から7年。市民への弾圧は続き、拷問による取り調べ中ひとりの学生が死亡する。簡単に隠蔽出来ることだと体制側は思っていたが……。韓国の大統領選挙が国民による直接選挙制へと移行する布石となった「6月民主抗争」の影で奮闘した、勇気ある人々の物語。

たった31年(本国公開時は30年)前。当時をしっかり憶えているお年頃なので(まずオートリバースって単語に反応したよね)「よくこの翌年にソウルオリンピックを開催出来たな…」とその躍進に驚く。バレーボールが好きなので近代〜現代歴はスポーツイヴェントを軸に記憶が引っ張り出されます。ちなみに前年ソウルで開催されたアジア大会のことも憶えてるわ、熊田康徳選手がユニバのエースから全日本のエースになれるかどうかって正念場だった頃ですよ! 同年の世界選手権でボロ負けしてな! ……それはともかく、全斗煥の名前もリアルタイムで報道見てたしなあ。まだご存命なのよね……(関連記事:『全斗煥氏、アルツハイマー病と診断 光州事件の公判欠席』2018年8月29日│朝日新聞デジタル)。

と、いうくらい、80年代はまだそんなに遠い昔のことという実感がない。しかし韓国では、この過去が歴史になったともいえるのだ。朴槿恵政権を無血デモにより追放したばかりだからこそ、こうしたエンタテイメント(なのだ、見事に)作品を公開出来た。つまり、前政権が続いていたらこの作品は公開も完成も叶わなかったかもしれず、次の機会が訪れる迄この出来事は歴史にはならなかった。十年前公開の『星から来た男』では名前を出さず(出せず?)「禿頭の男」と呼んでいた人物……全斗煥についてこう描写する時代が来たのだなあとも思う。

法を遵守する検事、事実を伝えるべく取材を続ける記者。幾日の拒絶と迷いの末、伝令役の“鳩”を引き受ける大学生。彼らはただただ、「間違っている」ことに目を背けることをしなかった、出来なかった。それがどれ程困難なことか。ひとりひとりのちいさな勇気の積み重ねに、今の韓国があることを映画は描く。この映画に出演した役者たちも、そうした勇気の持ち主だ。今作がエンタテイメントたる所以は、迫力ある演出、丁寧な再現映像によるものだけではない。勇気を持って出演した演者たちのユーモアも利いている。「われわれが過去から受けつぐべきものはペーソスで、未来に目指すべきはユーモア」という星新一の言葉を思い出した。

意識せずしてこの闘いの口火を切り、職を失い乍らものらりくらりと「俺の大本営発表(これ、日本ならではの字幕だけど皮肉が効いててよかったなー)」を記者に託し、終盤これまたのらりくらりと現れる、ハ・ジョンウ演じる検事がこのひとならではの軽妙な魅力。『タクシー運転手』でも活躍した“市井の人”の愛嬌を今作でも振りまいてくれた看守役のユ・ヘジン(無事の帰宅を心から願ったよ!)、圧力に屈しない記者を演じたイ・ヒジュンのしたたかさ、そして終始汗、埃、紫煙でベタベタしていた画面に爽やかな風を吹き込んだキム・テリ。赤いコート、ウォークマン、キュートな顔立ちに検問の男たちが見惚れてしまうシーン、痛快だった。そんな彼女が目にするデモの光景が、前半と後半でまるで違う印象になる演出もいい。カン・ドンウォンの名前はあれど宣美に全く出てこず(なんとパンフにも写真は載ってない徹底ぶり)不思議に思っていたが、観て納得。拷問死した大学生と、ドンウォン演じたもうひとりの大学生がいたことが、市民の心を動かす結果になったのだ。

そしてキム・ユンソク。時代に翻弄された体制側の人物。とにかく悪役なのだが、赤狩りに異様な執念を見せる原因を語る場面は胸を衝かれた。作品への献身溢れるヒールっぷりでした。あんまり怖くて憎らしいから精神が逃避したか、途中からわあ〜ユンソクさんて左利きなのね、わっ蹴りも左脚で入れるのねとか妙なところに注視してしまった。


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09月12日(水)
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