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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■さいたまゴールド・シアター『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』
さいたまゴールド・シアター『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO
出演者自身に起こった悲惨な体験を、当人が台本化し演じるシリーズ『ワレワレのモロモロ』をゴールドシアターで。ゴールドの面々が個人史を舞台に載せる作品というと、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団のメンバーである瀬山亜津咲とのタンツ・テアター『ザ・ファクトリー3』という傑作がありましたが、岩井秀人構成・演出の今作も素晴らしかった。『わが家の三代目』『友よ』『無言』『パミーとのはなし』『荒鷲』『その日、3才4ヶ月』の6セクション。
ハイバイ式、出演者による上演に際しての諸注意で開幕。ひとなつこいキャラクターの遠山陽一が担当。注意は3つ。携帯電話等音が出るものの電源を切ること(というか、呼び出し音が鳴ることとヴァイブ機能の違いが僕には分かりませんので、とにかく音が出ない状態にしてくれればいいですといっていた)。飲食OK、ただ、食べものの入っている袋は一気に開けること。地震の際はスタッフの指示に従うこと。ここ迄はハイバイと同じ。そして3つ目、上演時間は変動すること。台詞を忘れて思い出したり誰かに教えてもらったりしていると長くなる。台本の数ページをすっ飛ばして台詞をいうときもある。そういうときは短くなる。何かあっても、僕が責任とりますからと監督の岩井さんがいってくれました。とっても若いのに、たいしたものですねえ。ですって。ウケた。
そしてこの日はもうひとつ、おことわりがありました。出演者のひとりが喉を傷めてしまい声があまり出ない。他の役者が代わりを務めることも検討しましたが、彼女はだいじな仲間。マイクを持って芝居することをお許しください。
果たして登場した彼女の声はかすれ、聞きとれない箇所もあった。中盤以降、舞台上でちょっとした話し合いが行われ、彼女の台詞を他の役者が分担して話す場面もあった。この舞台上での変更に演出家は介入していない。ひとりの役者が咄嗟に「ここは僕たちが分担しよう!」と提案して決まったことだ。
プロンプはついていない。上演時間は予定より少し延びた。観る側の注意力と咀嚼力も求められる。例えば従来の芝居では強調されて発せられるであろう重要な言葉にメリハリがなかったり、台詞をここぞというタイミングで噛んでしまったり。ときには群衆的な役割のひとが早まって(あるいは遅れて)同時に喋ってしまったり、大声を被せてしまったり。上演時間が長い! とか台詞噛んだ! とか鬼の首をとったように騒ぐひとにはおすすめ出来ない公演だ。ただ、そういったこと以外のところで瞠目するものが多くある。だからゴールドの公演に通いつめてしまう。きっかけは蜷川幸雄だが、彼が演出していない作品のどれもが魅力的で、見逃せない、次も是非観たい、と毎回思わせられる。
いちばん若い出演者が1945年生まれ。劇団にはもっと若いひとも在籍している。ひとつの作品に構成するなかでたまたまこうなったのか、「悲惨な体験」を演劇にするというこのシリーズでは戦争という体験のおおきさがものをいったのか。広島で被爆した方、お国のために死んできなさいと母親に送り出され予科練で終戦を迎えた方。今回は出演していないが特攻隊の生き残りもいた筈だ。そうした体験が舞台上で繰り広げられる。ここで岩井構成の妙が光る。そのエピソードのなかに批評性を持つ人物を登場させる。戦後をアメリカ人とのビジネスで生き抜いた人物に、恥ずかしくないのか、自分だけいい思いをすればいいのかと言葉を投げる人物がいる。主人公は、それらの言葉を受けて立つ。捨てられていく古い冷蔵庫を演じるのは劇団最年長の男性だ。彼は戦中の思い出をぽろりぽろりと呟くが、故障して異音を発しているのだと片付けられる。新しくやってきた冷蔵庫は、アメリカ人を演じた女性だ。複数のエピソードが複数の役を演じる役者で繋がり、役と演者がレイヤーになる。作者が長年抱えていた記憶に、自分が思ってもいなかった意味が生じる瞬間が現れる。
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05月12日(土)
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