ID:43818
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by kai
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■『アテネのタイモン』
『アテネのタイモン』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

うわっ、面白かったよ! 蜷川幸雄の遺産をコンダクター吉田鋼太郎率いるカンパニーが楽しんで(同じくらい悩んでいるのだろうが)料理してる。開演15分くらい前から席に着いてるといいですよ。以下ネタバレあります。

裸舞台にいくつかのハンガーラック。まず藤原竜也が登場。続いて出演者、スタッフが現れてストレッチや発声練習、談笑をはじめる。吉田鋼太郎はあちこちに目を配り乍ら指示も出す。やがて出演者が横一列に並ぶ、劇場がしん、と静まり返る。鋼太郎さんが客席を笑顔で見渡す。息をすって、一瞬の間。そして、

「ようこそ!」

拍手が起こり、出演者たちは自分のポジションに駆けていく。舞台のはじまりだ。鋼太郎さんのちょっと緊張した、でもやったるでえといった感じの第一声、忘れられない。

蜷川演出のマナーを守りつつ、しかし細やかな台詞まわしや対話のやりとりは鋼太郎さんの指導の賜物、という仕上がりだった。舞台機構を活かした、セットと演者が流れるように前後左右を移動する視覚効果はさい芸と蜷川演出の醍醐味でもあって、それを吉田演出は引き継いでいる。ああ、蜷川さんとさい芸が培ってきた手法が生きている、さい芸のシェイクスピアシリーズを観られた、といううれしさがあった。豪奢で機能的な衣裳(小峰リリー。これが最後の仕事だったのだろうか……)。森にさしこむ一筋の陽光を見事に表現する照明(原田保)。長年シリーズに携わってきたスタッフワークも冴える。意外だったのは美術の秋山光洋。ハイバイの美術もやっている方なのだが、抽象のレリーフと具象の森の装置はまさにさい芸シェイクスピアシリーズのそれだった。ニナカンやネクストの面々の配役もよかった。大石継太と新川將人の詩人と画家コンビがかわいい。大石さんのエクステもかわいい。

あとまわしにされてただけあってヘンな戯曲ではある(笑・残りもそんなんばっかりぽいが……鋼太郎さんも「こんなのばっかり残しやがって〜」とか仰ってましたね)。過去見たことのあるようなシーンが多く、結末も「ん? シェイクスピア飽きた? 匙投げた?」と思ってしまうような唐突さだ。主人公タイモンが転落し復讐を開始する一幕の騒々しさと、森で隠遁するタイモンとそこへ訪ねてくる者たちとの対話で構成される二幕の静けさの差異も大きい。

ところが各々の場をとりだしてみると、見応えがある。二幕はほぼふたり芝居のつらなりで、タイモンの存在は彼が逃げ込んだ森とともにどんどんミニマムになっていく。シェイクスピアは森を混迷の道具に使う。いったりきたりの禅問答のようなダイアログ。しかしこれがじっくり聴けるのだ。独白や対話を修飾語で彩り、流麗な構文で展開させるシェイクスピアと訳者・松岡和子の面目躍如。ここに鋼太郎さんは着目したのではないだろうか。蜷川さんが続けてきたシリーズのイメージを壊すことなく、鋼太郎さんが長年培ってきたシェイクスピア戯曲の表現術をカンパニーに浸透させる。翻訳調の台詞を、いかにひっかかりなく観客に伝えるかということに注意を払う。

緩急、強弱を駆使して伝えられる台詞は、心地よく観客の耳に届く。意味とともにするする頭に入ってくる、鋼太郎さんと横田栄司の台詞まわしはやっぱりすげえ。藤原さんも随分鋼太郎さんとやりあったんじゃないかなという感じで、とても滑らか、かつ熱のある対話を聴かせる。漫才かといいたくなるような、ふたりの罵りあいは見ものです。


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12月16日(土)
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