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by kai
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■『パーマ屋スミレ』
鄭義信 三部作 Vol.3『パーマ屋スミレ』@新国立劇場 小劇場
『鄭義信 三部作』の最後を飾るのは、1960年代、東京オリンピックの翌年の物語。年代順だと『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』『焼肉ドラゴン』で、何故その順で上演しなかったんだろう? という素朴な疑問も浮かびますが、三ヶ月連続で鄭さんが演出だとあまりにも過酷だからかしらという推測に落ち着きました。鈴木裕美演出の『たとえば〜』を新国立で上演している間、『焼肉〜』は地方公演に出かけていたしね。
入場して、まず美術(伊藤雅子)にほおお…とため息がもれる。初演でもそうだったが、具象で徹底的に作り込まれ、そこで暮らすひとたちの息遣いまで伝わってくるような集落。瞬時にして観客を1960年代の炭鉱の町へとつれていく。そして三部作連続上演の妙味かもしれない、『焼肉ドラゴン』の家屋と間取りが似通っていることに気付く。おそらく基盤は同じもので、流用されているものも多いだろう。ぐるぐるとループのように繰り返される歴史をなぞるような感覚に陥る。
初演から役者が替わったのは、成勲と英勲の兄弟のみ。村上淳演じる弟は優しく引っ込み思案、少年の面影を残すいい男っぷりで、こりゃー大吉も惚れるよね。手づくりマフラー巻いてあげてよ! と思わず大吉の心境にぐぐっとよりましたよね……(笑)。それはさておき、あの優しさはあ〜この町では生きていけんな……という予感もまとっていてよかった。千葉哲也演じる兄=須美の夫はザネリ(@銀河鉄道の夜)ばりの意地悪っぷりで、それが九州男の意地と須美を思う気持ちのねじれから生じたものだとなかなか気付かせない巧さ。その意地っぱりな、情けなさっぷりが素晴らしかったです。あーホントにめんどくさい男ね〜(ほめてる)!
そう、劇中の須美が「朝鮮人なのに九州女」と言われるように、男も朝鮮人なのに九州男だわなと九州出身としてしみじみ思いました。あのーここでちょっと話逸れますが、どこの出身でも、どの地方でも、いいとことわるいとこってあるでしょう。だけど九州のイメージってわるい面が大きくとりあげられているように感じるのは被害者意識かしらね……。いちいち「これだから九州の男は…」とか「やっぱり九州の女は…」て言われるとうるせーバーカよけいなお世話じゃって思うんじゃよー! 鄭さんは姫路育ちだそうなので(本人曰く姫路城の近所だったので「高級石垣朝鮮人集落育ち」・笑)九州にどんなイメージを持っているかは判らないけど、今作は九州人のいいとこもわるいとこも両方描いてくれてるのがよかったな。というか嬉しかったな。
と、三部作中唯一初演も観ていたので、今回再演を観ることによって新たに気付いたことや、2016年に改めて観ることで感じ入る箇所も多かった。「滑走路を作るために人手が…」って台詞を聴いて「ああ、これから彼らは『焼肉ドラゴン』の世界へ旅立つんだな」と思えたこと。二幕が始まるまえの口上にあったように、今作の事故のモデルとなっている三井三池炭鉱は熊本県側にも坑口があり、その熊本が今被災していること。
そして、演劇だからこそのマジック。大人になった大吉(大大吉)が追憶の風景に立っていること。
劇中、須美がパーマ屋を開く夢を打ち明けたのはふたりだけ。ひとりは甥の大吉。そして夫の成勲。故郷を離れ、ファッションデザイナーの夢を捨てた大大吉は、追憶のなかで須美と成勲の会話に立ち会う。大吉だけが知っていたその店名を須美が成勲に告白するとき、大大吉は須美とともに「パーマ屋スミレ」とささやくのだ。
大大吉が、このときの須美と成勲の会話を知るはずはない。この光景は、やがて大大吉が迎える臨終の床で見る走馬灯になるかもしれない。いや、それとも。
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05月29日(日)
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