ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■高橋徹也『The Orchestra』
高橋徹也 20th ANNIVERSARY 弦楽ライヴ『The Orchestra』@下北沢SEED SHIP
Vo, G:高橋徹也、Arr, Pf:佐藤友亮(sugarbeans)、Vn:矢野小百合、Vla:田中詩織、Vc:今井香織。
三年前からシリーズとなっている(三回目(2015)、二回目(2014)、一回目(2013))弦楽ライヴの四回目。天の利、地の利、人の和揃った感がありました。ひとつの完成形を見た思い。楽曲の素晴らしさ、アレンジの妙、歌唱・演奏のコンディション、音響のよさ、観客の集中度、そしてハコの外からの影響がなかったこと。 神がかっていた……音楽に奇跡が宿る瞬間に立ち会えた、その幸運に感謝したい。心からそう思えたライヴだった。
それぞれの要素についてもうちょっと詳しく。佐藤友亮によるストリングスアレンジが回を重ねるごとに磨かれ、決定版と言えるものになっている。そのアレンジにより、楽曲そのものの新しい魅力に気付かされるのは毎回のことだが、同時に原曲の持つ多面性にも恐れ入る。そして音響のバランスがとにかくよかった。演奏用のスペースではあるものの、観客がランダムに位置するフロアで、自分のいた位置はチェロの斜め前二列目。楽器にはマイクが装着してあるが、生音もダブって聴こえるくらいの距離だ。ところがオープニングのチューニングがインプロへと変容し、そのまま「美しい人」の導入へと繋がった(この構成も見事だった!)ときには、全ての音がハーモニーとなってスピーカーから現れ、そのハーモニーがハコを響かせる、といった形で耳に届いた。いや、頭上から降ってきた、といってもいい。えーとこの説明でわかるか? どう書けばいいんだ? スペースそのものが楽器になったかのようだった。
音響のよさを実感するのは、大概音の分離のよさなのだが(個人の判断です)、今回はもう各々のパートが、と言う域ではなく“The Orchestra”の音としてしか聴こえなかった。どの音も等価。どの音も欠かせない。まさにそれがオーケストラなのだ。前回も似たような位置から聴いていたのだが、こんな鳴り方はしていなかった。同じ場所での演奏を重ねることで、プレイヤーだけでなく音響スタッフにもノウハウが蓄積され、コントロールが自在になったのだろう。数回ハウリングがあったけど、これはプレイヤーが動くことによって起きる不可抗力。
この響きはどこから生まれる? 耳を澄ます。この非日常の正体はどこにある? 目をこらす。そうしていると歌詞の世界が眼前に現れる。白眉は「海流の沸点」。“どちらから?”、“安い洗浄液”。高橋徹也そのひとしか持ちえない声で唄われるこれらのラインで、ライヴスペースがぐにゃりと歪んだような錯覚に陥る。夜の“古いサービスエリア”の風景に放り込まれたかのよう。文字通り鳥肌がたった。すごい、と思う前にこわい、と思った。くわばらくわばらと唱えそうになりましたよね…いや、演奏のすごみのことを言いたいんだが、実際この歌のストーリーにとりこまれたらエラい目に遭いそうな気がしたんだ。だってトワイライトゾーンみたいじゃないの…うっかりその角を曲がったら、恐ろしい世界が待っていそうじゃないの……。バックミラー越しに後部座席を見ると、ほら。キエーーーーー
とりみだしました。いや、それ程すごかったと言いたい(伝わるのか)。「Praha」もすごかったな……演奏を通し、その作品の世界を浮かび上がらせるその力量。音楽は水面に絵を描くようなもので、そのすがたかたちを捉えることは叶わない。しかし、その世界を共有する場をつくることは出来るのだ。あとなんだ、えらそうですが高橋さんの歌の表現力、安定感がいつにも増して素晴らしかった。ピッチといい声の伸びといい……歌は身体の楽器で、体調や鍛錬によっていくらでも変化するものなのだ、と強く思い知らされる。相互作用もあっただろう、いい環境、いい演奏を前にすることで観客側の感覚も研ぎ澄まされる。この空間、この時間を壊さないように、たいせつなものにしよう、という意識が(無意識であっても)働いていたように思う。
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03月27日(日)
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