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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ふたたび SWING ME AGAIN』
『ふたたび SWING ME AGAIN』(DVD)
うわーこれはとてもいい映画だった、観られてよかった。鈴木亮平出演映画三本目、この映画に遭わせてくれて有難うお兄やん! 監督は鈴木さんの師匠である塩屋俊、原作・脚本は矢城潤一。
死んだと言われていた祖父は香川のハンセン病療養所にいた。50年振りに神戸に戻った彼は、かつてのバンド仲間と恋人を訪ねようとする。巻き込まれた形で孫息子が運転手となり、ふたりのロードムービーが始まる。途中療養所の看護師も加わり、三人は失われた時間を追いかける。
全体の成り立ちは多少歪ではある。出来過ぎの展開とも言える。孫息子の恋人とのいざこざとその落ち着きどころ、金に困っていた家に大金が転がり込む展開など。これらはだいじな要素でもあって、それ迄ノホホンと育った孫が初めて直面する差別であり、ハンセン病患者が失った膨大な時間と人権は賠償金と言う形にしかならないと言う絶望感だ。しかし差別は理解と言う形を経て減らしていくことが出来るし、金には誠意を込めることが出来る。この辺りはもう少し丁寧に扱ってほしかった。docomo提携なんだなあとすぐ解る携帯の扱い方や、看護師の出自が後付けだと感じられてしまうところもひっかかる。
しかし、目を奪われ心に深く刻まれるシーンの数々は前述の不満を凌駕する。自分のバンドのレコードを孫が聴きファンになっていたことを知ったときの祖父の表情、恋人がハンセン病だったが故にその後の人生を閉ざされた女性が、それでも自分の父を生んだことを知ったときの孫の表情。当時の写真を見せられて、混濁した記憶がみるみる鮮明になっていくバンド仲間の表情、続く固いハグ。祖父に初めて「抱かせてくれ」と言われた途端、抑えてきた感情を爆発させる父、それを目にして嗚咽を漏らす母。演者の力とそれに対する演出、ロケーションのよさ、それらを丁寧に押さえるカメラが素晴らしい。体格がまるで違う祖父と孫が、長く続く道路をふたり並んで歩く姿を捉えた引きのショットは今でも心に残っている。お揃いのサングラスを掛ける祖父と孫、海辺でトランペットを吹く祖父と言う場面もとても印象的。
祖父を演じるのは財津一郎。50年ぶりに再会するバンドメンバーは犬塚弘、佐川満男、藤村俊二。実際に担当楽器を演奏出来たのは犬塚さんだけだが(クレイジーキャッツのベーシスト。ネクタイをシャツにねじ込んでウッドベースを演奏する姿、むっちゃ格好よかった!!!)、彼らが揃いの衣裳で、実在する老舗ジャズクラブSONEのステージに立つ姿はもうそれだけで音楽が流れてきそう。顔と身体に刻まれた年輪がジャズとともにスウィングする、その説得力。父と母を演じた陣内孝則、古手川祐子も、困惑と受容の塩梅が絶妙だった。
ラストシーンは正直『フランダースの犬』を思い出してしまったのだが、映画のファンタジーとして受けとることが出来た。主人公が幸せな表情で目を閉じる他所で、願いが叶わず一生を終えたひとがどれだけいたか、差別され虐げられたひとたちがどれだけいたか。このラストシーンには、そんな彼らの想いも込められているように思えた。乗っていたジープが潰れ、乗り換えた車がオープンカーと言うところも非常に映画的で絵になっていた。
さて鈴木さん。わーこれ、こういう鈴木亮平が観たかった! 弱ってはいないが(笑)。感想を検索してみると「ウチの息子に似てる」「孫に似てる」と書いてる方が結構いる。映画の内容や出演者から、公開当時の観客の年齢層は高かったのかな。そんなひとたちから愛された役柄とも言える。家族が祖父をまるで腫れ物に触るかのように扱うなか、ひとりだけすいすいと懐に飛び込んでいく孫。その天真爛漫さに両親は随分助けられたのではないだろうか…と思わせられる存在感。当て書きもあったとのことで、もうドンピシャの役どころ。もうねわたくしもはや母だか祖母だかの目線で観てましたよね…彼女とヨリを戻すより看護師とくっついちまいなよと思いましたね……だってー看護師すごく素敵な人物だったんだものー。
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07月03日(金)
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