ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■平成中村座『陽春大歌舞伎』
『陽春大歌舞伎 〜十八世中村勘三郎を偲んで〜』昼の部@平成中村座

最後に勘三郎さんを観たのは三年前の平成中村座だった。スカリツリーの借景、桜吹雪、蜘蛛の糸。あの光景は、冥土の土産のひとつだな。そして舞台は続き、芸は継承される。平成中村座が浅草に帰ってきました。浅草寺境内に作られた芝居小屋は、街そのものも音響装置。裏手からは花やしきではしゃぐこどもたちの声、上空からはヘリコプターの音。これもご愛敬。

『双蝶々曲輪日記 角力場』、歌舞伎十八番の内『勧進帳 長唄囃子連中』、新皿屋敷月雨暈『魚屋宗五郎』。勧進帳以外は初見。

『双蝶々曲輪日記 角力場』、初っ端出てきたのが吾妻役の新悟さんだったもんでもうテンションあがりましたよね…拍手拍手。柳のような立ち姿、よく通る芯のある声。そして彌十郎さんの濡髪がもー、もー、登場からしてもーーー(白目)。また演出が粋で。引き戸がパァン! と開いたら胸から下しか見えなくて。登場迄さんざ話題にされた濡髪登場! と瞬間の周知。場内どよめいたよね……歌舞伎界一の長身=ご本人曰く世界最長身の歌舞伎役者、ハマリ役もいいとこですがな。衣裳もたっぷり、大きく重そう。それはもう堂々とした力士っぷりです、ゴージャス! 椅子の上に黒子がさっと台を入れる。この効果で座る姿もまたまた大きい。見惚れる…目が潰れる……潰れたら見られなくなるのであかん、あかんわ。なんかもーガン見しましたよね、おおうおおう(感動のあまり泣いてる)。

獅童さんは二役を愛嬌たっぷりに演じる。てか獅童さんもそんなちいさいひとじゃないのになんか遠近感が狂うよ! 姿勢や仕草で体格の差を強調する、この辺りも巧いなあ。コミカルなやりとり、茶碗を割る場面もウケるウケる。それが一転、取組の謎が明かされてにらみあい。ビシリとキマる。なんかもー胸いっぱいですよ! 直後のお弁当時間もポワーてなってましたよ(と言いつつしっかりおいしくいただきました)!

『勧進帳 長唄囃子連中』、橋之助さんの弁慶を観るのは初めて。義経たちを無事通し、酒宴から花道へ。さていよいよ飛び六法、と見栄を切るとき、橋之助さんの息はかなり上がっていました。肩が上下し、はあ、はあ、と言う息遣いも聴こえる。このへん玄人から見ると粋じゃないのかも知れませんが、個人的にはかなり心揺さぶられました。席が花道に近い位置だったこと、その花道は芝居小屋ならではの低さで、仰ぎ見ることなく役者と向かい合えたこともあると思いますが、役者の迫力が肌で感じられるものだったのです。必死の形相にも映るその姿は、無事義経たちを逃がすことが出来た安堵、承知の上で酒宴を設け時間を稼いでくれた富樫への感謝、続く道行への悲壮……それらがないまぜになっている。息を呑むように場内が静まり返る、続いて万雷の拍手。いや、これは惚れた。橋之助さんの弁慶また観たい。

国生、宗生、鶴松演じる血気盛んな山伏勢も清々しい。それをたしなめる亀蔵さんがまた素敵。キリリとした勘九郎さんの富樫、しん、とした空気を纏う七之助さんの義経にも終始釘付け。

『魚屋宗五郎』。先月NHKの追悼番組で、三津五郎さん演じる宗五郎を観て臨みました。

個人的には酒絡みの話ってあまり得意ではなく「呑んでたからって許されると思うなよ」と思うたちなんですが(根拠あり)、このお話は展開がよい方に転がるので笑い泣きの風情で観た。宗五郎の女房おはまが酔漢の扱いに慣れているような描写もよくてね。またこのおはまを演じた七之助さんの口跡がよい。姫役の美しさも素晴らしいけど、こういう世話物おばやんを演じる七之助さん好きなんですよ。そして宗五郎を演じた勘九郎さんの色っぽいこと。表情、声色、仕草、上気していく肌の色。喉をくいくい鳴らして呑むさまがまー愛らしい。いやはやこれには参った、近くには絶対いてほしくない酒乱だが、舞台で見る分にはその色気を堪能出来ますね。彌十郎さんは今回お素敵な役ばかり、たおやかで品のある家老浦戸でございました。登場したとき客席が「あ、さっきの(濡髪)」って空気になったところも楽しかったな、小さな息と言うか声があちこちからほわっと浮かんで。


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04月19日(日)
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