ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『いやおうなしに』
歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』@PARCO劇場

やー、やー、素晴らしい。福原さんの構成力、河原さんの演出圧の高さ、抜けのよい演者。自分にとっての『マンマ・ミーア!』ですわ。面影ラッキーホール(とやはり言ってしまう)の数多の楽曲をこう構成したかと言うのがもう…「ゴムまり」と「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏」がああ繋がるか! 「俺のせいで甲子園に行けなかった」がああ展開するか! フィリピンパブからの〜アイリーンが実体を伴って目の前に現れたこの衝撃と嬉しさ! そのアイリーンが実は…と言うスリルとサスペンス! てんこもりか!

面影ラッキーホール改O.L.H.(Only Love Hurts)の楽曲群は、徹底的なリサーチのもとに磨き込まれた詞世界を、手練のどファンク演奏にのせてブリブリに繰り広げる歌謡の悲哀が魅力。それだけに言葉と演奏だけでお腹いっぱいになるんですよね。あまりにも徹底した描写なので、aCKyが唄えばもう目の前に男女のあれこれが拡がるので充分と言うか隙がないと言うか。それにどうやってストーリーを付加し、新たにヴィジュアルを起こすのかと言うところが今回個人的な見どころではありました。それがまー、福原さんすごいな! この手があったかと。数々の歌の世界の住人は、別々の世界の住人だと捉えていた自分の目から鱗がぽろりぽろりと落ちました。自分のなかでは別々の場所で別々に暮らし、別々の夜に別々にひとり涙を流す登場人物たちが、目の前に地続きで現れた訳です。だって、あの暮らしを、あの事件を、ひとりやひとくみひとつの家族、ひとつの町で抱え込むにはあまりにもヘヴィーですやん……そのあれこれをひとつのストーリーに結びつけ、そのブリッジにはしっかり福原節を入れてきているこの構成の妙!

歌の情景描写を歌謡ショウとして見せたのは流石の河原さん。ただでさえ職人的とも言える手腕を持ち、適所に適材を持ってくるこれまたこの方も手練の演出家ですが、そこに面影愛が加わるとこうなるか。回想と現在、妄想と現実、そこに現れる複数の人物を出演者が掛け持ちで演じると言う、一座が旅公演でやって参りました的な外枠も効果的。登場人物が唄い出す唐突さも歌謡ショウなら違和感なし、と言うかこれしかないとも言えるものになっている。ライヴでもやる振付がちゃんとショウに織り込まれているところにも面影好きは震えましたね。このコミット! そして後になって気付いたが、「北関東の訛りも消えて」辺りでさりげなく山中さんがやってた振付、あれは牛久の大仏ではないか。ニクい。

そして早替え衣装替え。旦那上等金上等性上等の衣装を着てハンドマイクを握りガッツガツに本気と書いてマジな顔で唄い踊るキョンキョン! 聖子さん! 充希ちゃん! いやまじで顔がマジでな…舞台上と裏でやること多過ぎで、テンションと体力の限界に挑むマジさでな……裏では酸素ボンベ吸ってんじゃないかと思ってしまう鬼の形相でな………。大人の本気と書いてマジを思い知りました。ショウビズなめんじゃねえと言う小泉パイセンの心の声が聴こえるようでした。

それにしても常日頃から、河原さんの「劇場のサイズに解像度を合わせてくる」腕には唸るばかりなのですが、それって「場が余っていると見せない空間認識能力の高さ」と「用意された空間に詰めるだけ詰める圧の高さ」があって、今回は後者が際立ちまくっていた。ハイレゾかよと言う…それでいて死角がないの。端から端までひとがいていろんなことをやってるんだけどちゃんと視界に入るし、そのカオスのなかでどこがキモかってのはちゃんと照明なり音なりでガイドがあるの。ちゃんと情報が届く。今回ツアーあったから他会場だとどうだったのかなあ。PARCO劇場ではそこらへんが的確も的確だった。


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02月07日(土)
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