ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[648315hit]
■『王の涙 ―イ・サンの決断―』『薄氷の殺人』
『王の涙 ―イ・サンの決断―』@TOHOシネマズシャンテ スクリーン2
原題は『역린(逆鱗)』、英題は『The Fatal Encounter』。うわー面白かったで…現在に生きる者が、決してその実物を見ることの出来ない歴史劇。そのとき何があったのか、実のところは誰も知らない。記録をもとに、想像を巡らしていくしかない。その記録に想像力を掛け合わせ、新たな物語が出来上がる。記録に残らなかったひとたち、記録に書き写すことの出来ない思いを込めて。
1777年7月28日に起こった、王の寝殿近く迄刺客が押し入ったと言う李朝史上最も重大な事件“丁酉逆変”。『朝鮮王朝実録』としてユネスコ世界記録遺産に登録された程、朝鮮王朝時代の王の行動や発言は仔細にわたり記録されている。それにも関わらず、丁酉逆変の記録はごく簡潔なものしか残っていないと言う。その夜、何が起こったか。事変は誰が計画したのか、その裏で誰がどう行動したか。謎の多い史実を、想像力を駆使して描く。登場人物の人生と運命を編み込みつつ、24時間と言う時間に凝縮したところも利いている。実在した人物と、想像上の人物が同じように必死で生きる。
物語は、自分の人生を持てなかった、底辺に生きるひとたちの思いを掬いとる。記録に残されないひとたちの人生は、こうやって誰かが目撃することもあるのだと描く。彼らの運命は苛烈だ。所謂「捨て駒」だ。登場人物たちが記憶を巡らせる毎に、悲しみが像を結んでいく。決定的に最悪な瞬間を待つしかないつらさ。大人になれなかったこどもたちのことも思う。7番と220番の間にいたこどもたち…その前と後に続いたこどもたち。そしてここに女の子がいたと言うことも。考えるだけで怒りで指先が冷たくなる。
王の涙は宦官の涙であり、刺客の、その恋人の涙でもある。子を守りたい王の母の涙であり、計略を挫かれた祖母の涙でもある。自分のために涙を流した者はいない。皆が、大切な誰かを思って泣く。失われたものへの大きさ、後悔、決して戻らないものを思って泣く。就任宣言後、王がすぐにとった行動は、その記録に残らない彼らに差した光であり、王が常に胸に留めていた『中庸』の言葉に繋がっていく。「小事を軽んじず至誠を尽くせ 誠を尽くし、たゆまず歩み続ければ、この世は必ず変わる」。決して理想を見失わず、未来への希望を捨てないストーリー。今観ることが出来てよかった。
美術も衣裳も豪華絢爛。鳥瞰と仰視、スローとクイックのリズム、雨の縦線、矢の弾道の横線。画角のどれもが絵になる美しさ。時系列に進めたいところと、そこに差し込みたい回想シーンの行き来につんのめり感があったのが惜しい。アクションも素晴らしかったので、そこをもうちょっと沢山観たかったなあとも思ったり。
さてこの映画、王イ・サンのことも、それを演じたヒョンビンのことも知らなかった(いやはやヒョンビンさん素晴らしかったです…精緻な表情、静謐な佇まいに秘めたしなやかな体躯!)のに何故観に行ったかと言うと、チョ・ジョンソクとパク・ソンウンが出ていたからです。ソンウンさんは言わずと知れた?『新しき世界』のジュング、ジョンソクくんは『観相師』で観て以来気になっている役者さん。いーやー観に行ってよがっだ。ジョンソクくんめちゃいい役だった。予告を観る機会がなく、新聞広告のぬれねずみになってる写真で見ただけだったのでいったい何の役よ…と思ってたら、当代随一の刺客でしたよ! 目が! あの目が活きる! も〜なんて目が物語るひとなのでしょう。その目が伸びた髪や黒笠で時折隠れるとき、彼ウルスは何を思うのか。悲しい…運命としか言いようのないその人生を演じきっていました。登場した途端タヌキって呼ばれてたのもツボでした(笑)。アクションも格好よかった! 討ち入りのとき剣と手をぐるぐるに縛り付けるところに、もう戻れない感が出ていてここで泣いたよもう(泣)。ソンウンさんは実在の人物、近衛隊長ホン・クギョン役。体格がいいので重厚な衣裳が似合うなあ、軍人らしい立派な貫禄。
[5]続きを読む
01月22日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る