ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■高橋徹也 レコ発ツアー・ファイナル『REST OF THE WORLD 1999-2014』
高橋徹也 レコ発ツアー・ファイナル『REST OF THE WORLD 1999-2014』@CLUB Que
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Vo、G:高橋徹也、B:鹿島“KID”達也、Drs:脇山広介(tobaccojuice)、Key:佐藤友亮(sugarbeans)
ゲストホーンズ:Tp:山崎千裕、Ts:杉田久子、Tb:永井嗣人
(ホーンアレンジ:sugarbeans)
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レコ発、と言うことだったが、そのレコードから演奏されたのは一曲のみ。そのレコードと言うのは、録音から十五年後にリリースされた幻の4thアルバム『REST OF THE WORLD』だ。所謂お蔵入りと言うやつだが、運命のいたずらはあるものだ。マスターテープが発掘され、さまざまな権利契約をクリアし、日の目を見ることになった。情報が出たのはGW明けくらいだっただろうか、web上で大騒ぎになったのを憶えている。リリースに際して、多くの関係者の方の意欲や協力があったのだと思う。その経緯も踏まえ、デビューからのキャリアを振り返ってみると言う集大成的なライヴになったのだろう。高橋さんご本人だけでなく、当時からのファンやリスナーの方々の思いはいかばかりか。
アンコールでは予告どおり「新しい世界」が演奏された。ご本人曰く「ホーン・セクションを加えたオリジナル・レコーディング・アレンジで演奏したのは、なんと『初めて』」。リリースから十七年後、まるでこの夜、この場を待っていたかのような、集ったひとたちを祝福するかのような音が、高らかに鳴り響いた。
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一曲目はデビューシングル「My Favourite Girl」。歓声(と言うより驚きのどよめき)が上がる。続けて「真夜中のメリーゴーランド」「チャイナカフェ」と畳み掛ける。佐藤さんの指が軽やかに、踊るように鍵盤上を滑る。この曲や「ホテル・スターダスト」は、佐藤さんの演奏が際立っていた。どの曲も音源とはまた違うアレンジが施されているうえ、佐藤さんも鹿島さんもインプロ的なフレーズやソロをぐいぐい入れてくる。瞬時に対応し、全体の流れを底上げする脇山さん。大きなエンジンを積んでる! と言うのがバンドの第一印象。サウンドとしては相当エグい。
そう、このバンドセット…驚いたのはそのグルーヴマスターっぷり。本腰入れて聴き始めたのは昨年からの新参なもので、ライヴはKeyあるいはBとのデュオや、弦楽カルテットとのアコースティックセットでしか聴いたことがなかったのだ。良質な楽曲や歌詞、歌唱を噛み締めると言う形でライヴに参加していた訳だが、それらがバンドセットだとこうなるかと。ゴリゴリのファンク、スウィングなダンスミュージック。もともとの音源に忠実な構成で演奏しても(そしてその音源は勿論素晴らしい)、ライヴと言う有機的な場でないと起こり得ないグルーヴなのだ。このメンバーが揃ったステージにおけるマジックとしか言いようがない。スティーリーダンかトーキングヘッズか? このアンサンブルの妙技! まさに音のいきもの。そして何がすごいって、アクの強いこれらの演奏が、ある種のひとなつこささえ感じさせるポピュラーミュージックとして響くのだ。
それは高橋さんの力量なのだと思う。ヴェルヴェットヴォイスと言える天性の声のよさに加え、ファルセット、ヴィブラート、モノローグと言ったヴォーカリゼーションのスキル、歌詞世界を鮮やかに表現するストーリーテラーの妙で聴かせる。複雑なリズムの海を、優雅にメロディが泳いでいく。そしてギター。あの(あのって言っちゃうわ)鉄壁リズム隊の間を縫うような精緻なコード、カッティング。水面下では演奏のせめぎ合いが繰り広げられる。まさに白鳥だ。ぐいぐい引き込まれる。久し振りのバンドセット(だったそう)で、フラストレーションが爆発した印象すらあった。それも地力あってこそだ。
それにしても…「音楽の天国と地獄」を具現化したような曲を書く。「新しい世界」と「ユニバース」が顕著だが、ポップソングにしては長めの7〜8分のなかに「Circle Line」〜「Hard Core Peace」のあの(あの再び)多幸感をぶっこむ凄まじさなのだ。DCPRG好きにしか判らないたとえで申し訳ないが、高橋さんは菊地成孔との共演楽曲があるので思い出した次第。現在コラボレートしたらどうなるか、聴いてみたくもある。
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11月02日(日)
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