ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『KOMA'』
さいたまゴールド・シアター×瀬山亜津咲『KOMA'』@彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
初日にタイトルが決定したようです。チラシにもチケットにも「新作」としか書かれていなかったもんね。日々変化する出演者たちの身体と向き合い、ギリギリ迄いろんなことにトライし、構成を変えていたのだと思う。昨年のワーク・イン・プログレス公開『ザ・ファクトリー3』(2013年観た舞台のなかでも五指に入る素晴らしさだった)を経て、満を持しての本公演です。会場も大練習室から小ホールへ。ヴッパタール舞踊団の瀬山亜津咲さんを演出・振付に迎えた、ゴールドシアターのタンツテアター。
まっさらの舞台、小道具も大道具もなく、劇場機構もむきだしのまま。舞台と客席のの段差はない。舞台奥の鉄扉から、ひとりの女性が出てくる。壁にしばらくの間寄りかかる。やがて回転し乍ら舞台のアウトラインを辿る。照明が落ち、かなり暗い。しかり身体がぐらつくことがない。あ、これが「KOMA'」(=独楽)かな? と思う。一周まわりきった彼女はまた壁に寄りかかる。観客に背を向けている。その背中には「ひとり」と言う重みが伸し掛かっているように見える。
やがて出演者全員が登場し、一列に並んでまっすぐ観客席へと歩いてくる。舞台と客席ギリギリのところ迄きて、まっすぐ前を見る。今回最前列ほぼ中央の席で観ていたので、少し動揺する。間の距離は1メートルもないくらいだ。どこを見よう、誰を見よう。自然と自分の正面にいた女性の顔を見る。一瞬目が合う。微笑まれたような気がする。
瀬山さんであろう声が、マイクを通して劇場のどこかから聴こえてくる。「きょうだいがいるひととひとりっこのひと」。ふたつのグループに分かれる。ひとりっこのひとはひとりだけだった。ああ、この世代では珍しいことなのだなと思う。「埼玉に住んでいるひと」「西武池袋線を使っているひと」と質問がいくつか続く。「ひとに言えない恋をしているひと」、誰も動かない。「ほんとに?」「ほんとにほんと?」微笑ましい問いつめに、出演者たちは笑って「ない、ない」と手を振る。
日常的な動作がダンスになる。スローモーションで動くふたりの女性の手に、他の出演者がかわるがわる日用品を持たせていく。この動きにまずはっとする、これは筋力がないと出来ない動きだ。開演前に見た、当日パンフレットに記載されていた演者たちの年齢を思い出す。あの年齢で? とその動きに驚き(いや真面目な話、私これ出来んかもしれん…て動きもあって……YABAI)、あのひととあのひとは年齢はほぼ同じだった筈だが、立ち姿や体型はかなり違うものだな、と思い、前回の公演よりあのひとは太ったな、痩せたな、などと思う。ゴールド・シアターの公演はここ数年ずっと観ているが、数ヶ月毎に会う彼らの変化はかなりハッキリ目に映る。それは衰弱でもあるし、回復でもある。体重の増減に変化があっても、猫背だった姿勢がシャンと伸びるようになっていたりする。
今回サポート的な若手は出てこなかった。ねじを落としたと床を探しまわるスタッフらしきひと、マイクスタンドの高さを変えるひとが出てきただけだ。彼はゴールドシアターの面々に手を貸さない。出演者には杖をついている方もいるが(男性最高齢者の煖エ清さんだ)、近くにいるメンバーが彼の手をとる。煖エさんは、ワーク・イン・プログレスの幕切れに「まあね、ルーツなんて、たいしたものじゃないんですよ」と言い放った方だ。前日観た『グランギニョル未来』から、身体に宿る思考について考える。身体には刻まれた個人の歴史がある。彼らはどうやって今迄過ごしてきたのか。どんな暮らしをしているのか。その記憶も、脳と言う身体の器官が司っているものだ。出演者ひとりひとりの「ひとり」を思う。
序盤の恋の質問は、色っぽい男女のダンスパートで観客の想像力を刺激する。男性同士の相撲は、男の子のじゃれあいにも、大人の闘争にも思える。マイクパフォーマンスでは、こちらがヒヤリとするような言動があったりする。
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08月30日(土)
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