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by kai
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■『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』
『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』@世田谷パブリックシアター
アイルランド絡みの舞台、今月二本目。そもそも? 円の『ロンサム・ウェスト』を演出したのが森新太郎さんだったんですね。この作演コンビ(リチャード・ビーン×森さん)で2012年に上演された『ハーベスト』がとても面白かったので、今回観に行くのを決めました。『ハーベスト』は百年の物語、『ビッグ・フェラー』は三十年の物語。いやー見応えあった! こういうの大好き!
1972年3月17日のニューヨーク、聖パトリックスデイのブラッディサンデー追悼集会で演説するひとりの男。IRAのNY支部リーダーである彼デイヴィッド・コステロは、アメリカンドリームの体現者と言っていい成功者。滑らかな弁舌でIRA活動の資金集めにも隙がない。愛称は“ビッグ・フェラー”、アイルランド義勇軍の伝説的人物マイケル・コリンズをなぞったニックネームで、本人も気に入っている。本部の後方支援的な役割を担いつつ、普段はNYのよき市民として暮らしている。数日後、彼らにアジトを提供している消防士マイケル・ドイルはIRAへの入隊を許可される。彼は「(IRAに入るってことは)人生おしまいになるってこと」、と覚悟する。この物語はマイケルから見たビッグ・フェラーの姿であり、異国で暮らすIRAメンバーの人生を、実在の出来事やモデルを織り込みつつ俯瞰するものでもある。
アジトにはさまざまな人物が出入りする。ルエリがつれこんだプエルトリカンの女性、IRA本部の残忍な幹部。暴力、尋問、対立。さまざまなことが起こる。マイケルは恋仲になりそうだった仲間を「メキシコ送り」にされ、本部と支部の齟齬を知り、IRA活動の矛盾を目撃する。反米テロ組織の行為を非難するメンバーたちの議論を聴き、自分が属する組織との違いを考える。「命令」とは、どこの誰から下されるものなのか? プロテスタントにも関わらずIRAに入隊し、カトリック由来のキルトを履く。部屋には祖父から受け継いだギターや、マンチェスターユナイテッドのマフラータオルが飾られている。“ビッグ・フェラー”と同じファーストネームを持つ「口数が少ない」マイケルは、目の前で起こることを黙って見続け、自分の信念の在処を探し続ける。
自信に満ちあふれたデイヴィッドは愛する娘と妻を失い、やがて破滅する。デイヴィッド同様アメリカ就労ビザと明るい将来を獲得したかに見えたルエリは、ある日消える。ルエリの個展カタログを上下逆に眺めるデイヴィッドの姿は、ニックネームの本来の意味を皮肉にも思い出させる。マイケルに人生の成功者として映っていた筈のデイヴィッドは、1999年の聖パトリックスデイで「おまえはもうおしまいだ」と言うヤジにまみれる。やはりIRAに入ることは「人生おしまい」なのか?
四幕十一場。テンポのよいスピーディな転換、比例して重くなる登場人物たちの心情を丁寧に描く演出。その後ポイントとなると気付かされるやりとりを、さりげない乍らしっかり印象に残るように提示する手腕も見事。舞台は主にマイケルの部屋のなかだが、調度品等を少しずつ変える等してときの流れをシンプルに表現する。外での出来事は、映像と転換を流麗な編集で見せる。モンドリアンのコンポジションと、その時代を象徴する事件の映像が重なる瞬間の鮮烈なこと!
明星さん、小林さんの場面が白眉。片や組織のミソジニーに潰される優れたIRAメンバー、片や男性性により妻や部下を支配するIRA幹部。一場だけの出番でその人物の生きざまを浮き彫りにさせ、強烈な印象を残す。デイヴィッドが幹部に下した行為がどれだけ恐ろしいことか、その知識が多少でもあるひとは身震いしたのではないだろうか。何故そこ迄? この時期デイヴィッドは家族を失い、FBIと接触していたことが後に明らかになるが、彼の行為は保身によるものか、支部リーダーとしてのプライドから来たものか考えさせられた。デイヴィッドとルエリの対照的な行く末にも、考える余白が残されている。このさじ加減のバランスがよい。
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05月31日(土)
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