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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ショーシャンクの空に』
『ショーシャンクの空に』@サンシャイン劇場
おお、これはすごくよかった。映画にはなかった原作のとある要素をこう使ったか!と言う仕掛けがとても効果的。流石の河原演出、手際の良さが鮮やかです。以下ネタバレあります。
その仕掛けと言うのは、原作のタイトルにも出てくる女優たち(リタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチ)。牢獄の壁に貼られているポスター、と言うアイテムとして描かれていた彼女たちが、ショーシャンク刑務所に降り立ち、登場人物たちと抱擁しあいダンスをする。彼女たちにしか知り得ない秘密を目撃し、彼女たちしか聞けない会話を聞いている。怒り、恐れ、過酷な現実の前に立ちすくむ登場人物たちの傍に寄り添い語りかける。
観客にそうと了解させる流れも巧い。壁に貼られているポスターには、背景と女優の名前しか描かれていません。自己紹介をして語り始める彼女たちはポスターから抜け出してきたのだと瞬時に解る。同様に、慰問映画会のスクリーンのなかから飛び出してきたかのようなリタやラクエルが、囚人たちの周りを蠱惑的な表情で練り歩くシーンにも唸らされました。この鮮やかな展開、このスピード感!三世代の女優たちが語り合う場面も、その時代を実感させるいいアクセントになっています。それだけ長い間、アンディやレッドが監獄のなかにいたのだと解る。
そして再び唸ったのは、その三人の女優たちが、レッドの殺した三人の女性として現れる終盤。三幕迄明かされなかったレッドの罪の重さを、短時間で衝撃的に提示するつくりです。この構成は見事。観客の想像力を刺激し、舞台に立つ人物たちと共犯関係を築ける、これぞ演劇の醍醐味。こういうのに遭うと演劇を好きで本当によかったと思う。
その大きな役割を演じる女優三人がまたよかった。それぞれの色を持っていて、その振る舞い、プロポーションも時代を象徴する。リタの高橋由美子さんは小柄でエレガント、マリリンの新良エツ子さんは肉感的でセクシュアル、ラクエルの宇野まり絵さんは野性的でスポーティ。そしてとにかく皆がいきいきとしている(この辺りにも河原さんの手腕が光る)。そんな彼女たちは、アンディが何度も語る「希望」そのものです。放送室に忍び込んだアンディがかけるレコードの「誰も寝てはならぬ」を唄う新良さんも素晴らしかった!その場にいる誰もが釘付けになるような歌唱力でした。
舞台版オリジナルの設定はもうひとつあって、それは出所したレッドになつく少年の存在。彼とレッドの交流は、苦くも甘い思い出を残します。外に出たレッドの絶望と、そしてそこにやはり残るちいさな希望。それらを炙り出す少年とその兄の存在は、レッドの救済にもなるのです。で、この少年を、作・演出でずっと気になっていた悪い芝居の山崎彬さんが演じており、これがまたよくて…ぎゃー、いきなり役者で観てしまった。ホントにアホの子に見える!(ほめてるのかこれ)根はいい子なんだけど心に闇を抱えていて、ちょっとしたアクシデントであっと言う間に暗黒面に転がり落ちてしまうような危うさ…やー、よかった。
アンディを演じる成河くん、レッドを演じる益岡徹さんのコンビネーションも素晴らしい。台詞にも出てくる黒曜石のようなキラッキラな瞳を持つ成河くんはもーアンディ、アンディだよ!小柄なところも原作に合っていて、これなら脱獄出来る〜と思う(笑・いや映画のティム・ロビンスも素晴らしかったし大好きですよ!)。ストーリーを追う毎に明らかになっていきますが、アンディは天使と悪魔の両面を持つ人物でもある。自分をレイプした相手に手酷い仕返しをするし、“洗濯”した金を自分の口座に落とし込む狡猾さも持ち合わせている。それでも彼には…いや、その複雑さこそが彼の魅力なのだ。そんな彼の魅力が、自分の罪の重さを痛い程自覚し、決して許されてはいけないと言う信念すら持っているレッドが一歩踏み出すきっかけになる。宗教的な要素も沢山含むこの物語ですが、罪を抱えた人物にも決して希望は失われないと言うひとつの指針を見せてくれます。
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11月09日(土)
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