ID:43818
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by kai
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■『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』
さいたまゴールド・シアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』@彩の国さいたま芸術劇場 大稽古場

ゴールドシアターは本公演の第一回から観始めたので、それ以前の中間発表公演は逃してしまっています。と言うか、中間発表『Pro-cess2/鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』の評判を知り、ゴールドの公演を観続けることになったのでした。今回その『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』を本公演として上演すると言う。やっと観られる!と言う思いもあり、とても楽しみにしていました。

会場は第二回公演『95kgと97kgのあいだ』でも使われた大稽古場。急勾配の仮設客席で、段差も大きいので見やすい。最後(高)列は、高所恐怖症のひとは無理かもってくらいです。個人的には好きな配置で、高いところも好きなので(バカ)当然最後列に陣取る。「稽古場なので携帯抑止装置が設置されておりません。電源をお切りください」等の諸注意のあと「客席間の階段は上演中使用しますので荷物等置かないでください。ゴールドシアターですから、転んだりしたらとても危険で……」と言うおことわりに笑いが起こる。笑い乍らも「えっこの階段使うの?」とビビる。ホントに急なんですよ。

暗闇に浮かび上がったのは、発光する水槽のなかで眠る老人たち。宣美にも使われていたイメージだ。モノローグがリレーのように続く。若者ふたりが現れ瞬時に場はチャリティーショー会場に。手製爆弾が投げ込まれ、悲鳴とともにうごめく老人たち。四月に起こったボストンマラソン爆弾テロの光景が頭をよぎりました。現代に上演することで付随してくるものがある。黒子たちが水槽を素早く撤収(ひと入ってるから結構力仕事ですね、黒子はネクストシアターの面々だったのかな)、若者は取り押さえられ、またもや瞬時に場が転換。あっと言う間に裁判が始まる。このスピード感ははすごかったなー。毎度のことだけど蜷川さんのツカミはすごい。

しかし若者(孫)を助けようと老婆たちが裁判所を占拠するくだりで様子が変わってくる。1971年の現代人劇場による初演も、『Pro-cess2』でもそうだったと言う荒々しい襲撃ではなかったのだ。前述の階段から老婆の列がゆっくり降りてくる。途中迄スタッフの手を支えに降りてくる者もいる。彼女たちは多くの荷物を抱えている。鍋であったり、洗濯紐であったり、日常生活に使うものだ。いったい何人いるのだろうと思う程、長々と行列が続く。動作がゆっくりなので、これはいつ迄続くのだ?と言う不安も湧く。やがて全員が舞台に降り立ち、床に静かに座り込み、荷物を広げ、生活を始める。生活?そうなのだ、まるでずっと前からそこで暮らしているかのように、彼女たちは振る舞い始める。洗濯物を干す、食事の用意を始める。野菜を切り鍋ものを作り始める者、カレーをよそう者、焼うどんを作る者。ここは劇場だと言う「約束」が麻痺していく。暮らしに伴うさまざまな動作とともに彼女たちは話しているようだが、言葉は不明瞭で声もちいさい。普通に部屋で話すくらいの音量だ。裁判長も判事たちも、検事も弁護士も、被告人もあっけにとらえる。勿論観客もだ。やがて焼うどんのいい匂いが漂いはじめ、それ迄固唾をのんで見守っていた観客席からくすくす笑いが漏れてくる。


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05月19日(日)
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