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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2022
あっこのリズムトラックよく使ってたやつ! 『Ultravisitor』で全編使われてたスネアの音! 『Burningn'n Tree』のリズムが入ってる気がする……これ超〜初期のじゃない? 『Male Pill』シリーズ? この頃ってテープ編集してたんじゃなかったっけ? これらの音素材をいちいちサンプリングしたの(いやマルチから拾えるのかもしれんけど)!? そもそもレコーディングに使った機材の音をライヴ用にわざわざベースに置き換えてその場で“演奏”するって、バカなの!?(褒めてる)
ベースを置いて卓に向かってからもそれは続く。音素材の断片は既知のものでも、使い方は全然違う。聴き憶えのあるフレーズやパーツはあるけど、曲の成り立ちが音源とは全く違う。そもそももう違う曲だろ。殆どがインプロだったと思われる。そんでずっとBPMが速い。「Chin Hippy」くらいの速さがずーっと続く。しかし4〜8小節毎にキチンと展開やブレイクがある。割れる。こういうところ、通り名を体現している。スクエアだし、フロアを湧かせたい、観客が騒いだり笑っているとうれしい、という思いが素直に感じられる。何度も叫んでフロアを煽る(客を休ませない/甘やかさないともいう)。ビートはますます強力になる。
かろうじて原型が残っていた(何の曲かの判断がついた)のは「Anstromm Feck 4」と再びベースを持ってからの「Oberlove」「Nervelevers」、アンコールの「Come on My Selector」くらいか。最新作『Be Up A Hello』からの2曲はBPMも落とし、メロディの美しさを際立たせるサウンド。超メロウ。トムのロマンティストな部分が垣間見られた。
手首を骨折してからのトムがベースを弾くのは初めて観たので(一昨年のはDJセットだったから)まずはちゃんと(というのもアレだが)演奏出来ていたことに安心する。今回使用したベースは1本のみ、初めて見るもの。手首に負担がかからないように新調したものだろうかなどと思いつつ観ていたが、あんま関係なさそう…今のモードに合わせて自分で(ここだいじ)カスタマイズしたやつだな……と考えなおす。こことか後から見てトリハダ立ちましたよね……怖い! こんな魔改造したベース、2本はいらんだろう。
暴力的、破壊的と評されることも多いが、その裏にはこうしてベースを改造したり、コツコツプログラムを書いたりと、地道で緻密な作業がある。コロナ禍によるロックダウンがあったから、家にいる時間が長かったから、というだけではないだろう。いつでもトライアンドエラーを繰り返し、実験を重ねている。享楽的でもなく、破滅的でもない。
前述のハード/ソフトの話じゃないが、目まぐるしく更新していくエレクトロニックミュージックのシーンにおいて確固たる個性を持ち続ける。強烈なリズムトラックの創り手、優れたメロディメイカー、剛腕のベースプレイヤー。こんな音楽家、他にはいない。10代からレイヴの現場で育ち、ハタチそこそこでデビューし、膨大な作品を世に出してきたキャリアは伊達じゃない。
今のモードで『Big Loada』からのナンバー聴けたのもエモい(こればっかり)。「これまでにやってきた己の強みを再構築したデッキバトルという感じであまりにも強い。」というこの方のツイートに深く頷く。トムはいつでも“今”を見せてくれる。『Be Up A Hello』からのナンバーだって、延期されずに一昨年やっていたら全然違うものになっていただろう。
ライゾマのヴィジュアルもよかった。ハレーションギリギリなのに色飛びしないグリッチ。ビートと完全に同期していた照明との相乗効果も抜群。トムの音をガッツリ視覚化してくれた。当初とは違う会場で仕様諸々の変更もあったと思うが、素晴らしい仕事ぶり。
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10月28日(金)
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