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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『あいちトリエンナーレ 2016』(名古屋)、木ノ下歌舞伎『勧進帳』
対面客席をステージで分断。富樫側の臣下と義経側の四天王を同じ役者が演じる。同じ役者から同じ台詞が語られることで浮かび上がるその立場の違い、共通する未知のものへの恐怖、そして死への恐怖。誤認逮捕さながら、ひとちがいで落とされあちこちに転がる首は11個。「頭使えよ」、富樫は言うがそれが臣下たちには響かない。富樫の孤独はますます深まる。一方義経一行も迫る追っ手と立ちはだかる関所を前にして恐慌へ陥る。それを沈めるのが弁慶。富樫に弁慶のような臣下がいれば……富樫の切れる頭脳と振る舞いを見るにつけ、せつなさがつのる。
それにしても弁慶、キャスト表見て「リー5世て誰……」と思っていたのですがむっくりくまさん風貌の白人でした。芸人さんだそうで台詞まわしも軽妙、「たのむで」「せやから」「はよし!」と機関銃のように繰り出される関西弁にわく客席。すごいウケてたなー。それがやがて、物語が進むにつれ静まりかえる。演出杉原邦生がいう「異物」の存在感。このリー弁慶と坂口涼太郎演じる富樫が丁々発止とわたりあう山伏問答のエキサイティングなこと! 普段歌舞伎で観るときは言葉の問題もあり聞き流してしまうことも多いんだけど、木ノ下版はその内容が、問答としてしっかり伝わる。白眉!
しかしこの舞台、白眉がたくさんあるのであった。関所を通したあと、一行の最後尾にいた強力が義経だということに富樫が気づく場面。大音量で響くTAICHI MASTERのエレクトロサウンド、モノトーンの照明、ゆっくりと一歩一歩進む義経、追う富樫。まるでサスペンスの一場面のような緊張感、その身体表現の素晴らしさ。義経も富樫も下半身が強靭、腰が据わっているのでスローモーションな動きもポーズもキマるキマる。その姿勢の維持力にも恐れ入る。坂口さんは初見だったのですがあまりにも鮮烈な印象、歌舞伎の完コピだけじゃなかろう、身体表現の基礎があるひとじゃないか……と思っていたらダンサーの方でした。無駄のない動きをブーストするかのような衣裳も素晴らしかったなー。
そして終幕、酒盛りの場面。「おまえたちはいつもこんなに楽しそうなのか?」。富樫の孤独が再び浮かび、彼のその後に影を落とす。
停止→移動で時の流れを示す。時間を空間づかいで魅せる杉原演出、やっぱり鳥の目を感じる。関所を境界線に見立て、義経と弁慶の愛情(ラブソングのラップミュージカル仕立て)、義経を演じる高山さんのジェンダー、富樫が勧進帳の虚実を見破る瞬間といったボーダーも観客の判断に委ねられ、敵味方の境界をも消していく。
主宰木ノ下裕一、杉原さんのアフタートークも興味深く拝聴。怪我の功名と言おうか、初演時キャストオーディションをした際、募集要項に義経役は男性と書いていたのにも関わらず女性が応募してきて困り果てたが、試しにとやってみたらそれがよかった、それが後の義経のジェンダーレスという見立てに繋がるという話に、その女優さん応募してくれて有難うという気持ちに。ボーダーレスは大きく言えば世界平和に繋がると話す杉原さん、言葉にしてしまうと照れてしまうようなまっとうさ。それを舞台で表現するとああなるのか……。スタイリッシュな舞台、その実は熱い。ステージの配置、形状といい衣裳といい、整然とした容器のなかでシステマティックとも言える演者たちの動き。そこで爆発する登場人物たちの感情。そのギャップも魅力。
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劇場ロビーにはあいトリ出展のオブジェが。そのフォルムと内部から差す光のコントラストにしばし見とれてクレジットを見ると、またまた大巻伸嗣作品『重力と恩寵』でした。いやー今回は大巻さんにやられっぱなし。
ここでサさん、ポンチさんと合流。夕飯食べていったん解散。豊橋のホテルの寝間着が男女兼用のワンピースで、わあ『クレシダ』でシャンクが着てたやつみたーい。ベッドに寝っ転がって「ようこそ女性たちよ〜」なんてクレシダごっこをやったアホでした。当然翌日のことはまだ知らない。
10月22日(土)
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