ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■芸劇dance 橋本ロマンス×サエボーグ『パワーチキン』
畜産農場の一日。台詞は一切ありません。夜中の農場でプーリンセス(フンコロガシ)とハエがうんこと戯れるシーンから開幕。家畜たちは皆ラテックス星の着ぐるみで演じられますが、ハエだけは黒子が操演していました。このオープニング演出がなかなか怖くてですね……暗いし、不穏な雰囲気だし。未就学児も入場可だったので、ちいさい子づれのお客さんもまあまあいたのです。泣き出す子はいなかったけど、「こわ〜い」「帰ろうよう」といった声が聴こえてきました。だ、大丈夫か……などと思ったのですが、明るくなってからは静かになってホッ。まあ、寝たのかも知れんが楽しめたかしら……。農場でのびのび暮らす家畜たちがお客にじゃれついたりする楽しい場面と、搾取されていく家畜たちの阿鼻叫喚といった残酷な場面が交互に続きます。内容としてはまあまあハードコアなものだと思うのでトラウマにならなかっただろうかなどと心配もしましたが、『もうじきたべられるぼく』もベストセラーになっていることですし、いい思い出になるといいなどと思いました。

暗転や場面転換があるのが新鮮。登場人物ならぬ登場動物たちのキャラクターがより演劇的になった印象でした。そこには意志がありました。ミルクタンクを抱え逃げ惑うサエビーフ、身体を寄せ合い震えるサエポークたち、そんな家畜たちを柵の影からひっそり見守るサエチキン……サエチキンは今作の影の主役だったかも知れません。ひたすら卵を生んでは回収されていた彼女(?)はラストシーン、ひとつの選択をします。誰もいなくなった農場でひとり(1羽か)、出てこようとする卵を体内に押し戻すのです。泣いてしまった。サエチキン、大好きなのよ……めっちゃかわいい。中の人がどう入るかを考えたデザインもすごい。今回ますます大好きになりました。生き延びてー! と心の中で叫びました。

タイトルロールの新キャラ・パワーチキン(通称パワチキ)は3羽登場。それ迄の家畜たちとは明らかに異質なものです。過食部を大量に、効率的に提供するために誕生した、現実には存在しない(た、多分)品種です。登場シーンからしてナトリウムランプによるべったりとした質感。畏怖の念すら抱きました。パワチキはやがて自らの部位を外し、観客に分け与えていきます。手羽、手羽、腿、腿、そして胸。最後には頭部も外し、頭を残した1羽と合体して歩きます。む、ムカデ人間……と思ってしまったのは私だけではなかったようで、検索したら同じようなこといってるひとがいました。ははは、共通言語。

すまん…すまん……ニンゲンのためにこんな……と己の罪深さに慄き乍らその姿に見入るのですが、同時にあのパワチキ一羽だけトサカがついてるな、なんかこのトサカレモンに似てるな、レモンソテー用かな……などと思ってしまうそんな自分がイヤになる。つくづく人類は絶滅した方がよいと思うのですが、まあ、ままにならぬは浮世の習い。教訓を得なければならないということはないけれど、やっぱり気付きと心構えがあるのは事実で、せめて自分の周りではフードロスをなくそう! 無駄な殺生はいかん! とか浅いことを思う訳です。でも自分が今出来ることはそれだけなのよ。

はー、それにしても素晴らしいデザインだった、パワチキ。リボンで装着された部位といい、どうやって着付けするんだろうと考えてしまった。部位を外すと中の人の体型が顕になりハッとしました。そう、今回「中の人」を意識してしまうんですよ! これは今迄のサエボーグ作品ではないことだった! 中の人はニンゲン! 当たり前だけど! パワチキのウォーキングといい、黒子ちゃんが見せたキレのよいターンといい、ところどころでダンサーの技術に感心するところがありました。演者は全員オーディションで選ばれたとのこと。この辺は橋本さんの作品だからと応募してきたダンサーも多かったのかも知れないですね。

ここでまたサエチキンの話になるのですが、今回サエチキンの中の人素晴らしかったと思うのよ……農場に1羽とり残されて、エサをつついて、パタパタ歩いて。寂しさと戸惑いの入り混じったソロでした。原知里さんという方でした。うえーんこの方が中の人のサエチキンにまた会いたいよー。


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02月14日(土)
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