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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■東京バレエ団『M』初日
「禁色」パートの男男、女女、男女のパドゥドゥ〜聖セバスチャン(樋口祐輝よかった!)が少年に薔薇の花を手渡し、そこにシが駆け込んでくるシーンが大好き。今回も堪能。聖セバスチャンが与え、シが奪う規則性。あと今回は『鏡子の家』パートにいたく感じ入った。上野水香の超絶技巧! ベジャール独特の型が、長い腕と脚、剛柔併せ持つ身体で表現される。
射手の南江祐生も美しい所作。通常のバレエにはない振付、しかもこのシーンには音楽も全くない。そこで射法八節を見せるあの時間、めちゃめちゃ緊張するだろうな。それを固唾を呑んで見守る観客。針が落ちただけでも聴こえそうな静けさだった。あのキャパで、だ。シビれた。
池本さんは本当に凄かった。とうとう役をモノにしたというか(偉そうですみません)……前述したように「祖母」が格段に進歩した。5年前と全然違った。無邪気で屈託のないシ=死とは対照的で、体感的に死が近いことを自覚している祖母の風格があったといえばいいか。ゆっくりした所作のひとつひとつも老人のそれで、摺り足も美しい。見入ってしまった。カーテンコールではそっと少年を前へ押しやり自分は背後に控える。シという役柄だからこそ、という陰を感じた。衣装は真っ白なのにね。
船乗り役、前回は丸山明宏を彷彿するブラウリオ・アルバレスでほおぉ…となっていて、彼が退団した今どうなるんだ? と気になっていたが、今回の安村圭太もハッとする美しさ。菊池洋子のピアノを聴けるのも目玉。演奏(愛の死!)だけでなく、シと視線を交わし退場する一連の所作が素晴らしかった。
この5年で日本は、世界は凄まじいスピードで変化した。排外主義が跋扈し、分断が進んだ。しかもこれは進行形だ。この作品も、場合によっては危うい解釈で持ち上げられそうな不安がある。『M』は三島の生み出した作品と彼の人生がモチーフにはなっているが、彼の政治的主張を賛美するものとは思わない。
しかし今、あのときと同じことが起こったとしたらどうだろう。影響力のある作家が民兵組織を結成し、割腹自殺したら。そしてその生涯が作品化されたとしたら。それをどうメディアが取り上げ、どう民衆に拡がるだろう。初日の夜SNSで感想を探していて、ある議員が「ナショナリズムが〜」と書いているのを読んだ。「祖母」のことを「母」と勘違いしていた(「母」は「海上の月」として登場している)。芸術鑑賞に知識は必須といいたくないが、それでも首を傾げずにはいられなかった。ただでさえデリケートな作品なのでどう利用されるかわからない。この作品が上演され続ける平和な世の中であってほしい。
楽日にもう一度観る。楽しみ。
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・「M」2025 公式サイト┃NBS日本舞台芸術振興会
・ベジャール振付『M』、初演ダンサーが語る創作秘話┃NBS日本舞台芸術振興会
・東京バレエ団『M』(振付:モーリス・ベジャール)公開リハーサル・レポート┃SPICE
・インタビュー 横尾忠則と上野水香が語る東京バレエ団「M」 モーリス・ベジャールがつないだ2人┃ナタリー
横尾 ベジャールが三島由紀夫につながっていくのは、最初からわかっていたことでした。ベジャールに初めて会ったとき、彼はもう三島さんの“残像”をいっぱい抱えていましたから。
・十市さんがinstaストーリーズに東バからのメッセージ動画を載せていた。「初日開けました、十市さん、有難うございましたー!」って出演者が皆で手を振ってるの。今回はリモートで指導していたとのこと。現場に行けないのを残念がっていたけど、今はBBLとご家族の傍にいないとね
・子役さんの関係者(らしかった)の方々に囲まれたような席ですごい緊張感、つられてこちらも緊張して観たがご本人は堂々と少年を演じきっていた。ダブルキャストじゃないんですよね、あの歳であの役をひとりで…すごいな……
09月20日(土)
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