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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『終点 まさゆめ』
面白いのは、その「不要」な条件が状況によって変わることだ。宇宙船の運航のためには「役に立つひと」が必要。海賊は「仲間にふさわしい悪人」が必要。いかに社会に貢献したかをアピールしていた乗員たちが、海賊の仲間になるべく悪事を次々を暴露する。実は産地偽装してました、パワハラかなあ、若い女性を囲ってました……。その掌の返しっぷりに観客が湧く。産地偽装のワードが出たときなんて、ドッと笑いが起きた(笑・演じる石川さんの間が絶妙だった)。直後フォローの言葉にハッとする、「福島で、風況被害がすごくて」「仕方がなかったのよ」。

なんでも議論のシーンには台本がないという。演者が実際に体験したことなのか、演者自身の創作なのか……そのことをニヤニヤ考え乍ら観ていると、虚を突かれるようにエモーショナルな瞬間が訪れる。

「もと」を当てましょう! と入場時に出演者の顔写真がプリントされたカードを自分で選ぶんだけど、当てたので景品もらえました😇議論によって「もと」が毎回変わります。各人のエピソードも台本にはないそうで、今日はシフォンケーキのとこで泣いちゃった。17cmの型っての

[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Jan 11, 2025 at 18:58

孫を名乗る女性と、宮大工の会話だ。「おじいちゃんのシフォンケーキ食べたいな」「ああ、あるよ。今日は17cmの型で作ったよ」「どうして17cmで作ったの?」「おまえが来ると思わなかったから、自分で食べる用にちいさいので作ったんだ」。ぽろっと涙が出た。これはなかなか創作では出てこない言葉ではないだろうか。ふとした言葉、ふとした仕草から、演者の日々の暮らしが浮かび上がる。虚実の境目が消え、心に刺さる台詞の数々。長い長い人生の旅をゆき、そこで得た体験の数々が舞台に出現する。

「不要」な他者を選ぼうとしていた人間たちは、最終的に生き残らせるためのひとりを選ぶ。そこではもはやAIが「不要」なものとなる。彼らは目まぐるしく変わる環境を前に、自分たちで決めたことだから恨みっこなしよといえる呑気さを持っている。「ワンチャン生き残れるかもしれないもの」。達観と諦めに、かわいらしさが滲む。「もと」は宇宙へと放たれる。それは未来に生きる人類の根源となるか。大きな絶望とほのかな希望を余韻をとし、登場人物たちとともに「もと」を見送る。

高齢者のキャストはオーディションで選ばれた。千鳥のノブみたいに喋るひとがいるな…かわいいな……と思っていた女性は岡山からの参加者だった。この公演は、菅原さんの拠点である岡山でも上演されている。さい芸と岡山芸術創造劇場のタッグ、これからも観られるとうれしいな。終演後に見かけた出演者に杖をついているひとがいた。舞台上ではあんなにキビキビ動いていたのに! カーテンコールでは「石川さん、応援に来たよ!」「有難う!」なんて客席と舞台のやりとりもあり、演劇が心身に与える効果について考えた一日だった。

そうそう、唐組の久保井研さんが出るってのが意外というか何の役すんの? と思ってたんだが海賊役だった。ピッタリ(笑)。ニヤニヤ笑って議論聞いてるとことかめちゃめちゃおかしかった。

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・渡辺弘/菅原直樹 高齢者演劇先進国のこれまでとこれから―地方都市から発信を続けるエキスパートたち┃PANJ
渡辺 “すごくローカルなことが世界とクロスする”のがいいですよね。
公共劇場だからこそ出来ること。これからの活動も楽しみにしています

・松井さんの脳内ミューズ(?)アイドルは今回も登場。『聖地』は一度しか観ていないのに劇中出てきたキノコちゃんの歌、今でも唄えます……超インパクトがあって、超キャッチーなメロディーだったもんでな

・ちなみに自分は宇宙空間での事故がいちばん怖いマンなので、ぜってー移住はしないな……着いたら農業をとか養殖をとかいってたけどマジで出来んのか? 騙されてないか? どっか違うとこ連れてかれんじゃねーか? と序盤から疑念でいっぱい。宇宙へ行くなんて『ハイ・ライフ』みたいな未来しか見えないよ〜!


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01月11日(土)
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