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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『美しき仕事 4Kレストア版』先行上映+クレール・ドゥニ監督アフタートーク
・幼少の頃、フランスの植民地だったジブチで暮らしていました(ジブチがフランスから独立したのは1977年)。そのときに見た塩湖や火山といった美しい風景を撮りたかった。壊れた飛行機がそのまま野ざらしになっていて、その中に鳩が住んでいる。これも実際にあった風景です。当時映画界ではデジタル撮影への移行が進んでいました。予算の関係もありデジタルで撮ることにしましたが、連日気温50℃を越す撮影地でデジタルカメラが壊れてしまった。結果フィルムで撮ることになりました。16mmの方が予算には優しかったのですが、風景と人物を適切な距離で、同じ画面に入れて撮りたかったので35mmで撮りました。風景と俳優を適切な距離で撮る、私はそれが演出だと思っています

・原題の『Beau Travail』はメルヴィル未完の小説『Billy Budd, Sailor』からとりました。水兵の仕事の美しさが書かれています。帆を揚げたり降ろしたり、戦争の準備でもありますので、動作は素早く、滑らかに行われなければなりません

・兵士たちの訓練の動作は振付師を呼び、事前に屋内でリハをしました。撮影する段階になって初めて音楽をかけた状態で動いてもらいました

・ラストシーンは時系列を入れ替えました。本当は、ドニ演じるガルーが踊っているのは帰国する前のクラブです。その後マルセイユで自室のベッドを整え、銃を手に横たわります。それではあまりにも寂しい結末になるのではないかと、編集段階でダンスシーンを最後にしたのです

・(Q:同じ役者を何度も起用する理由)小津安二郎もそうだったでしょう? 好きな俳優には何度でも自分の映画に出てもらいたいものです

・(Q:ドニ・ラヴァンのキャスティングは当初違ったと聞きましたが)いいえ、そんなことはありませんよ。彼が演じることを前提に脚本を書きました

・戦争が身近にある今だったら、こんな風には撮れなかったし、今こうした映画は撮りません

・(Q:「美しき仕事」というタイトルだが、自分には兵士たちの身体や訓練の様子が美しいと思えなかった。織物をつくったり、放牧した家畜を追ったりする現地のひとたちこそ美しく見えた。そして、規律から離れたガルーが踊るラストシーンを美しいと感じた)戦争が美しいものとは思っていません。しかし、いつか戦争が起こるときのため準備はしておかないといけない。肉食的でもある男性の身体を、シンプルに、弱いものとして撮りたかったのです。今はこうした映画は撮りません。あなたは映画がお好きですか? 移動して一緒にコーヒーでも飲んでお話ししたいけど、私はこれから帰って荷物をまとめ、明日6時にホテルを出なければなりません。ここにいる誰かから私の電話番号を訊いて、連絡してください。メールでもいいですよ。フランスに来ることがあれば、是非連絡してください

この最後の質問が緊張感あるもので、そのうえ通訳を介すため結論に辿り着く迄何度もやりとりがあり、話題がどちらに転がるか判らないからすごいスリリングだった……辛抱強く話を聞き、エスプリを効かせた返答をした監督の度量に舌を巻きました。「今だったら撮らない」と何度も繰り返しいっていたのが印象的。

最後に壇上のポスターと並んで写真撮影の予定だった(らしい)のですが、トークが終わるとスタスタと客席へ降りていってしまいました。慌ててスタッフが駆け寄りましたが、再びステージに上がることはなく、その場で撮影が始まりました。ポスターの横で撮られたくなかったのかな……とちょっと邪推してしまった(そこ迄深刻ではないかな)。この映画に思うところがあるのは確かなようです。

今作に戦意高揚のメッセージはないと思いますが、兵士たちを「美しい」といわれることに抵抗があり、それでも軍を持たずにはいられない各国の状況を憂いているのであろうことは感じられました。そういう意味でも今また観られてよかったし、監督の言葉を聴けてよかったです。

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・美しき仕事 4Kレストア版┃横浜フランス映画祭 2024 (Festival du film français de Yokohama 2024)

・渋谷TOEIがル・シネマ 渋谷宮下になってから初めて行きました。ロビーがお洒落になってた。駅から近いのいいですね


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03月24日(日)
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