ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』
いやーもう最高よね、ティナ……仕草がどれもこれもかわいくて格好よくてさ。バーンに演奏を合わせるときの射るような視線、クリスの方を振り向くときの不敵な微笑、ヒールレスシューズでのステップ、そしてあのガニ股ダンス! 『ストップ・メイキング・センス』におけるティナの魅力は、映像のクオリティすら問わない普遍のものだと改めて感じ入る。
メンバー同士の関係性は決してよくなかった時期だ。実際、これがバンドの最後のツアーになった。それにも関わらず演奏は鉄壁かつエキサイティングなアンサンブルとなるところがマジックというか、音楽への献身というものは……としみじみする。イヤーモニターもなかった時代。ギミックじゃないのよ。
それにしても、このステージを映像に残すべく施された演出がホント素晴らしいな……と再認識。かなり考え抜かれたものだと思うが、実際始まるとこうもフィジカルなものになるものか。一曲ごとにひとりずつ登場するプレイヤー、少しずつ機材を持ち込み設営するスタッフ。メガネや電気スタンドといった小道具の使い方。バックドロップに映し出される画像(当時ならスライド?)、照明のオペレーションは手動だった筈だ。アンプには暗幕がかけてある。モノトーンに近い色使いのなか、終盤バーンが被るキャップの鮮やかな真紅が差し色になる。これは客席から投げ込まれたもので、最初から狙った演出ではないそうだが、そういったハプニングも演出の一要素に包み込んでしまう。
その“ステージ”をどう撮るか。3公演をひとつの作品にしてはいるものの、何しろライヴが始まったら中断は有り得ない。全てを長回しで撮っているようなものだ。舞台を袖から袖へ貫くショット。撮られる側にすらなるカメラクルー(彼らは大きなカメラを担いでステージ上を動きまわっている!)。画面に突然人物の頭部が入り込み、それが手持ち照明のスタッフだと判明する迄の数秒の衝撃(しかもそのスタッフ、バーンにマイクを向けられて唄う!)。エンディングになってようやく観客が次々と映し出される。ダンス、笑顔、熱狂。インカムをつけた男性スタッフふたりが肩を組んでステージを見守っている。その親密さ。
衣裳らしい衣裳を着るバーン、ティナ、サポートメンバーと、家から来たみたいな普段着のクリスとジェリー。終始楽しそうなクリスと、最後になってようやくちょっとだけ笑顔が出るバーン。バーン本人も当時の自分に「楽しい?」と訊きたいといっていた。こうしたちぐはぐさ、緊張感が、トーキング・ヘッズというバンドとこの映画の唯一無二の魅力になっている。これ迄も、これからも、不朽の名作。フォーマットをニューエスト・モデルに変化させつつ、何度でも観客の前に現れてほしい。
あんなに走りまわって唄うのに全然息切れしないバーンの若さが眩しいという話をして帰りました。はーまた観に行こう、『アメリカン・ユートピア』と二本立てもやってほしいなーってかこっちもIMAXで観てみたいよ!
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・『ストップ・メイキング・センス』4Kレストア版の驚くべき舞台裏 伝説のライブ映画はいかにして蘇ったか?┃Rolling Stone Japan
ジェリー・ハリスン「彼らはそれを映画館に戻したいと言ったんだ。ストリーミング配信だけだったら、アトモスで全編をリミックスしていたかどうか分からないよ。あれは空間オーディオだから、空間があることが重要なんだ」
ジェームズ・モコスキー(レストア主任)「これは3月のこと。A24はすでに公開を9月と設定している。彼らは、デカいスーツを着たデイヴィッドでトレイラーを作ってあり、〆切も決まっていて間に合わせなければいけない。それはつまり、これを完成させるには何もかも足りないということだったんだ」「まるで新品のようだった。損傷は全く無かった。あのネガフィルムにとって、紛失していたことは最高の出来事だったんじゃないだろうか」。
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02月04日(日)
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