ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■第7世代実験室『たかが世界の終わり』
観客は舞台を、本来はいられる筈のない場所から体験することになる。食卓の横で、兄を罵る弟の声を聴く。弟の妻の困惑を聴く。階段の前で妹の夢と現実を見る。そして子どもたちと一緒に、呑んだくれる母親を見る。観客は“家”に放り込まれる。カメラは気配を見せない。第三者がいたら決して話さなかったであろう言葉、見せなかったであろう表情が、次々と豪速球で投げ込まれる。家族の秘密を堂々と覗き見する矛盾に、後ろめたさすら感じる。鏡の前で青年が独白するシーンで、一瞬だけ撮影者が映り込む。ここで初めて、自分が身体をガチガチに強張らせて映像に見入っていたことに気付く。それ程のテンション。観客は、カメラを通してある家族の破壊と再生の一夜を共に出来るのだ。なんて幸せなことだろう。

さいたま芸術劇場での上演。ガラスの光庭から開巻し、ガレリアを通ってNINAGAWA STUDIOへ入る。現在大規模改修工事中、心のふるさとさい芸のあちこちが観られ涙ぐむ。当初は屋外のシーンもあったそうだが、悪天候により急遽屋内のみの上演になったとのこと。対応力に驚く。リハを相当数重ね、緻密に画角も練ったのだだろうと感じる仕上がりだったのだ。蜷川組で鍛えられた瞬発力とリカバリは受け継がれている。エンドロールに、所謂役名がついている演者だけでなく、リアルタイムで転換、照明、音響に携わった全てのひとが“出演”としてクレジットされていたことにも胸が熱くなる。舞台をつくりあげた全員が映像に残されている。余韻を残す幕切れだった。

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・鑑賞後、映画版は兄と弟が入れ替わっているとのことで衝撃を受ける。マジか

・三原順の『はみだしっ子』に出てくる鳩の喧嘩のエピソードも思い出しちゃった。鋭い嘴も爪も持たない平和の象徴は、それ故相手に致命的な攻撃を与えられずお互い傷ばっか増えるっていう。びえー

リビングルームってデスルームって呼ばれてた時代もあったんですよね、遺体が安置されること多いからですよね、や、ぜんぜん関係ないかもしれないけれど、当たり前に関係あるのかもしれないけれど https://t.co/Zye2sNozUK― 飴屋法水 (@norimizua) September 17, 2023
翌日目にしてウワアアとなるな、リビングルームはデスルーム……

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・劇場公開決定!#たかが世界の終わり トレイラー


・#playthemoment┃配信舞台『たかが世界の終わり』特設サイト
「いま、目の前で」を封じられた僕たちが、
配信という形で「一期一会」を全力で果たそうとした、
誠心誠意、努力と工夫の結晶です。
『第7世代実験室』は、さいたま・ネクストシアター有志メンバーを中心に結成された演劇企画ユニット。2020年2月、旗揚げ公演『勝手に思うから』でその一歩を踏み出しました(そのときの感想はこちら)。コロナがまだ“新型ウイルス”というくらいの呼ばれ方をしていて、じわじわと公演の延期や中止が増えていた頃。藤井風じゃないけど「コロナとともにデビュー」したようなもので、彼らは茨の道を歩むことになります。公演を打てない、稽古で集まれない。旗揚げ公演を打った新宿ゴールデン街劇場は、コロナ禍のあおりを受け同年8月に閉館してしまいます。ところがこの集団のバイタリティーは逞しく、その後茨の道どころか獣道をバッサバッサと切り開いていくのです

・ダイナナチャンネル by 第7世代実験室
YouTubeチャンネルを開設し、リモート演劇シリーズを配信。3年半で91本(!)の動画がアップされています。DIYで舞台制作から、撮影、編集、配信のセッティング、サイト運営も。頭が下がるこの情熱。コロナによる制限が解除されつつあるこれから、彼らはどんなものを見せてくれるだろう? 期待を持って長く観て行きたい集団です

・第7世代実験室onlineshop
グッズもあるよ。今回の上映で興味を持たれた方、是非に〜

09月17日(日)
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