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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■小林建樹 ワンマンライブ『BLUE MOON 〜不思議な夜をご一緒に』
思えば3rd『MUSIC MAN』が出たときは、アルバム制作費について生々しい話もしていた。ご本人のキャラクターもあり(関西弁というのも大きい)、決して不快にはならない話し方だったのだが、「レコード会社は音楽を売ることによって利益を出さなければならず、それはアーティストにとって決して良い影響ばかりではないのだ」と思ったことを憶えている。しかし、メジャー時代にこういった制作のノウハウとやりくりを学んだことは、その後小林さんが個人で活動するにあたって役立っているともいえる。『Emotion』が出たときのライヴで、前のアルバムの売り上げが新しい作品の制作費になるという話から「お金、だいじですよね」と話していたことを思い出す。

そして何より、メジャー在籍時より演奏も声も安定している。ライヴのスケジュールを自分で組めるようになったからでもあるだろうが、今は公演日に合わせ、しっかりコンディショニングすることが出来るのだろう。

近いところでいうと、メジャーから離れた高橋徹也、山田稔明も、ときどきライヴのMCやブログで今だからこそ振り返れる当時の経験を語っている。曰く「莫大な制作費(広告費等も含む)がかかっていたことを後で知った」「(メジャーとの)契約がなくなって一番お金がない頃、たくさんのレコードや機材を売った」。そんなふたりは今、業界の制約から離れたところで、自分の作品をリスナーに届けるために最適な環境と個性的な企画を次々用意し、日々精力的な活動を行っている。そして高橋さんも山田さんも、体調について、ライヴに向けてどういった準備をするかについて話す。フリーランスであること、音楽で生きていくことへの自負を感じる。

今はwebを通して個人で作品を発信出来るツールが増え、そこから利益を得ることも出来る。そうしたシステムが発達する過渡期から試行錯誤を続けてきた音楽家たちに、改めて尊敬の念を抱く。

話がまた逸れていると思うでしょう、いやいやこれが「魔術師」に繋がるのだ(笑)。6月に発表され、この日がライヴデビューだった新曲は、不安な今の社会につけ込む輩を魔術師に喩えたものだ。曲を紹介するときのMCで「輩」「許せない」という強い言葉を使っていた。そこには確かに怒りの感情があった。社会は確かに便利になっている、しかしその裏では、儲かりさえすればいいと考えるひとたちもいる。バズりさえすればいい、注目を集めればこっちのものと、甘くてわかりやすい、おまじないのような言葉を使ってひとを騙す。

あ〜ホント腹立たしい。なんて凡人はストレートに思ってしまうが、そこは音楽の魔術師(といってしまおう)小林さん、こうした“不安”や“怒り”の感情を作品に昇華する手腕が光る。社会の、人間の闇を見つめ、そこに光をあてる。持っている力を善悪どちらに使うのかという話だ。しかしここでいきなり『エコエコアザラク』の話を出すが(なんでや)、邪悪なものこそが悪を吸収することもある。さて、小林さんは白魔術師か黒魔術師か。どちらに振ることも出来る複雑さが、やはりこのひとの能力であり魅力なのだ。それは同じくこの日がライヴデビューだった「cau cau」もそう。ネットショッピング依存の危うさが人なつこいメロディにのせ唄われる、非常にユニークかつ印象に残る曲。

語感や響きを優先するので意味が通じない歌詞になったりするんだけど、「魔術師」や「cau cau」は違った、といっていた。昨年から「ライヴを再開」し、意欲的に制作を続けていることに、やはり意志を感じる。いいたいことがある。知らせたいことがある。

そして、ライヴを再開してからのMCでは、後日談的な話が多いことにも気付かされる(「キャベツ」が生まれた経緯はもっと前に話してたか?)。「cau cau」に際しての、今は落ちついたけどネットショッピングにハマっていた時期があった、という話もそうだが、この日いちばん興味深かったのは、「他人に提供する曲と自分の作品の完成度が同じにならないことがコンプレックスだった」ということだった。松浦亜弥さんに提供した「灯台」(!)を唄う前に話したこと。


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09月03日(日)
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