ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■2023 小林建樹 ワンマンライブ “ふるえて眠れ”
とはいえ、ライブは所謂“均質”ではない。小林さんの場合、そのムラが魅力でもある。定番曲の演奏にも必ず毎回違うフレーズが入る。その試みが一般的にいうミスタッチだったり、フレーズの繰り返しだったり、喰い気味に入る、あるいはコンマ何秒遅れるズレで現れることもあるが、脳内クリック/グリッドにリズムとハーモニーを置いていく手法が確立されているので、演奏が滞るということがない。もう達人の域だ。これこそソロライヴの醍醐味なのだが、一方で今他者と、ましてやバンド編成で演奏したらこのひとはどうなるのだろうと思ったりもする。1月の高橋徹也さんとのセッションでも、スリリングな場面が多々あった。余程じゃないと(相手が)合わせられないだろう。今の小林さんの演奏にジャストで合わせられるひとは…瞬時の判断で、あのグリッドに音を載せられるひとは……かつてトリオで凄まじい演奏を展開した千ヶ崎学さんなら、宮川剛さんなら? 聴いてみたい思いはある。ラジオで話していたことを思い出す。「咄嗟のことなのになんで合わせられるの? そんなんある!?」「キース・ジャレットのトリオやったらあるやろ」。
今回はレアというか、ライヴでやるのは珍しい曲、久しぶりの曲も多かった。印象的というか衝撃的だったのは「Boo Doo Loo」。『曖昧な引力』に収録されているトラックは、分厚いサウンドプロダクションで(今作のプロデューサーであるホッピー神山ならではの)サイケデリックな印象すらある。この曲をギター一本で、弾き語り!? 果たしてそれが音源を凌駕する強力な演奏だったのだ。
「“ああ、夢じゃない”という歌詞は、オーディションに引っかかってデビューが決まって、夢かな? と思っていて。でも事務所から電話がかかってくる。その度に“ああ、夢じゃない”と思っていたんです」。これは初耳。本当に歌詞に使う言葉が強いというか、そのときの心情をまっすぐ歌詞に反映させるのだなと改めて思う。何度も書いてる気がするが、当初歌詞の先生として窪田晴男が呼ばれたという話は今でもなんでや……と思うのだが(笑)、窪田さんは歌詞の書き方や言葉選びではなく、そのストレートで強い言葉をどう音楽に落とし込み、ドキュメントとフィクションの間(あわい)に謎を見出すか、ということを教えたのかもしれない。「ソングライター」の“トルネード”も、恐らく野茂英雄(の投球フォーム)からだろう。ピンとくる世代は限られている。それでも今この曲を聴くと、その言葉のチョイスに唸る。
閑話休題。「Boo Doo Loo」では「今90年代くらいの日本の曲を聴き返していて、間奏で好きだったバンドのある曲を入れてみます。難しいので自分が弾けるように変えています。わかるかな? わからなくてもいいんですよ」といっていた。何だろうと身構えて聴く。間奏に入る……なんとBOØWYの「Bad Feeling」のリフがブッ込まれた。キエー、カッティングの権化! 布袋寅泰さんのリフってホント強い。またこの抽出+アレンジが無茶苦茶格好よかった。アコギで弾くと音がジャラッとしてまたいい。
それにしてもこのチョイス。ビックリしたしニッコリした。先日YouTubeラジオでThe Street Slidersの曲をカヴァーしていて驚かされたのだが(小林建樹・ムーンシャインキャッチャー”R" 第23回 ”Boys Jump The Midnight" ”Angel Duster")、80〜90年代を再検証中のようだ。意外なのを聴いているなあ、とも、同世代だなあ、とも思う。いつも新鮮な驚きがある。
毎回違う演奏で、既存の楽曲の新しい一面を見せてくれる。一方で、「Sound Glider」の口笛はきっちり再現する。こういうのってうれしいものです。
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04月22日(土)
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