ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■南極探検いろいろ その3『その犬の名を誰も知らない』
そもそも、何故「彼」について2019年迄検証が行われなかったのか。数々の不運が重なったこともあるが、それはやはり「彼」が「犬」だったからなのだろう。「彼」の遺体は1968年、第九次越冬隊員によって発見されている。しかし同時にこの年は、1960年現地で行方不明になっていた第四次越冬隊員の遺体が発見された年でもあり、犬のことはニュースにもならなかった。越冬隊の報告書にも、発見されたという記述があるだけ。毛並、体格といった特徴すら記録されておらず、写真もない。越冬隊員たちには本業がある。やはり犬のことは片手間になってしまう。北村氏が「彼」の遺体発見を知らされたのは1982年になってから。北村氏は一次越冬隊の犬係だったが、本来の職務はオーロラ観測。帰国後も研究に追われ、やっと「彼」について調べる時間が出来たとき、今度は病に倒れてしまう。北村氏以外に「彼」を突き止めようとした人物はいなかったのではないか。タロ、ジロが生きていただけで充分、犬のことはもういいじゃないか……。
タロとジロのサヴァイヴ術に関しても、憶測の域を出ていなかったことが今回明らかになる。ペンギンの肉を犬たちは嫌った。アザラシにとって犬は脅威ではない(=犬にアザラシは捕獲出来ない)。アザラシの糞を食べたという説もあったが、その時期その地域にアザラシは生息していなかった。検証の末判明するのは、タロ、ジロ、そして「彼」は基地に取り残される以前と同じ、いや、それどころかもっと豪華なごちそうを食べていたということだ。そしてそのごちそうは、「彼」の能力なくしてはありつけないものだった。疑問が次々と氷解していく、三頭の行動が次第に像を結ぶ……そのスリルといったら、上質の推理小説を読んでいるかのよう。年老いた北村氏の記憶が、著者の嘉悦洋氏の質問と持参した資料によりみるみる鮮明に甦る様子も感動的だ。
嘉悦氏が北村氏を訪ねなければ、そして北村氏の意欲に再び火がつかなければ、「彼」はフィクションの住人のままだった。記録資料が残され、しかるべきところに保管されていたからこそ、「彼」を実体化することが出来た。運命的なものを感じる一方、やっぱ記録はとらなあかん…そして記録は残しておかなあかん……安易に破棄しちゃダメ! としみじみ思いましたね!
人間の都合で極地に連れてこられ、置き去りにされた犬たち。だからこそ人間の都合のいいように記録してはいけない。学者である北村氏と新聞記者だった嘉悦氏による検証は、極めて冷静で慎重だ。第三の犬がタロとジロを選んで群れをつくったのは情ではなく本能、人間の帰りを待ち基地を離れなかったのは美談ではなく戦略、と断定する。最終項、結論に基づいた「その犬」の最期が描かれる。その文章は論考でもあるが、それでもやはり心を動かされる。最後のページには「その犬」の写真。南極をまだ知らない「彼」が、稚内でソリ訓練に励んでいる。口角の上がったその顔は笑っているようにも見える。
世の中は悪くなる一方のようにも思うが、こうして犬一頭の記録を仔細に残せるようになった今は、少しだけいい世の中、になっているのかもしれない。初めて南極の地を踏んだ、全てのカラフト犬たちへのレクイエム。
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・原案・北村泰一さんインタビュー┃TBSテレビ:日曜劇場『南極大陸』
あああ今ものすごく観なおしたいこのドラマ! サイト残してくれてて有難う〜!
こどもたちからの募金が観測へのきっかけになったというのはいい話だなあ。比布のクマの話は本でも語られていたけど、犬の誇り高さがわかるエピソード。
宮沢和史さんが出演していたのも目玉でしたよね。宮沢さんといえば沖縄なのに、こんな寒い地のドラマに出るのん……と当時思った(笑)
・南極猫たけしと仲間たち┃国立極地研究所
(20200825追記:アーカイヴ室はこちら→・南極へ行った猫 たけし┃国立極地研究所 アーカイブ室)
コロナ禍で延期されている企画展。開催されたら是非観に行きたいな。
一次隊には猫も同行していました。航海のお守りとしても知られる三毛猫のオス。たけしは一次隊が撤収する際、シロ子たちとともに無事連れ帰られています。で、このなかに、
・昭和基地に行った犬(PDF)┃国立極地研究所
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08月06日(木)
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