ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ビビを見た!』
そして久ヶ沢徹がすごかった。彼が演じる複数の役は現実社会と災厄の具現化で、とても怖いものばかり。そこに絶妙な抜け感を出してくる。冒頭のナレーションと車掌のアナウンスにおけるすっとぼけ感、恐ろしいワカオがときどき見せる間抜けっぷり。フードを被った黒衣姿でステージ脇の講演台に陣取り、マイクの効果も駆使して演じたワカオの声には、このひとの「おかしい」感をまざまざと思い知らされた。久ヶ沢さんの(頭)おかしい=狂気は笑いの手法として使われることが多いけれど、今回は怖い方に寄っていたなあ。いやー怖かった、そしておかしかった。ホタルの母役、樹里咲穂の抑制された演技も素晴らしかった。我が子の目が見えるようになったのが「こんな日じゃなければねえ」という台詞、こどもと過ごした日々が凝縮されているように響いて涙が出た。濱田明日香によるTHERIACAのアシンメトリーな衣裳も素敵でした。コラボTシャツ販売してたんでわーと近寄ってみたら三万円台だったのであとずさった(笑)。

松井さんの描くディストピアはいつもグロテスクで、しかしユーモアにあふれ、鳥瞰的、観察的だ。登場人物たちが他者を愛おしく思い、たいせつに扱う気持ちがそうした演出のなかから浮かび上がる図式は、突き放しているようで実に生々しい。そこに好意を持つ。

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・「ビビを見た!」┃KAAT 神奈川芸術劇場
公式サイト。
あとKAATの広報誌『ANGLE』2019/07-09掲載の白井晃×松井周対談がすごく面白かった。この作品を上演しようと企画した経緯、お互いの演出法が「魔法のよう」に見えるって話。web版探したけど見つからないなあ、あるといいのにな。気になって奥付を見たら、今井浩一さんが編集されておりました。あ、やっぱりひっかかるものなのねと思った

・大海赫『ビビを見た!』┃復刊ドットコム
2004年に復刊された原作が物販にあったので購入。テキストは流石に忘れている箇所もあったけど、絵はひとめ見ただけで初見の恐怖がまざまざと甦った。一度しか読んでいないのに、余程インパクトあったんだな。今読み返すとやっぱり大人目線になるというか、避難させるひとたちの性別と年齢制限に納得しつつもひっかかりを覚えたり、警察官、運転手と車掌といった公的機関に携わるひとたちへどう信頼を置くか、といったこと迄考えさせられました。いやさ、男性を女性が蹴落として出発する列車とか…いろいろ……え、それはそれで酷くないかと思ったり……。
この復刻版には大海さんによる「種子明かし」あとがきと、よしもとばななによる解説がついています

・【公演レポート】松井周演出「ビビを見た!」開幕に岡山天音「皆さんにとってのビビを見つけて」(コメントあり)┃ステージナタリー
静止画像で観ても画になる美術だなあ。スチールがそのまま作品に見える。そしてビビかわいい

07月06日(土)
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