ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『Defiled −ディファイルド』
暴力という手荒なしつけを受けてもなお「最高だった」と強調するブライアン。そういう手段でしかこどもたちを育てられない親から、それでも受けとったものが沢山あるのだろう。そうした体験を経た彼はハリーにいう。「結婚しろ、家族を持て、子供を育てろ」「それが現実だ」。しかしこれらの台詞はこう続く。「子供に本を読んであげろ」。自分が育った環境は「不便」か「便利」か?「不幸」か「幸福」か? ブライアンは「不便」だったかもしれないが、そこから「幸福」を発掘している。ハリーは「便利」だったかもしれないが、そこに「不幸」ばかりを見出してしまう。どちらにも使命感はある。しかしその使命とやらを、どこ迄相手にわかってもらえるか? 実のところ、わかってもらえなくてもいいのだ。受け入れてもらえれば。ハリーもブライアンも理解しようとしてる。それでも、受け入れられない。冒頭に書いた「理解できなく」なるということは、受け入れることが出来たということでもある。

観客は登場人物と全く同じ一時間四十分を過ごす。ハリーとメリンダの対話はトランシーバーからのものなので観客にも聴こえる。ハリーとその姉、ハリーとブライアンの「カミさん」の対話は観客には聴こえない。逃げ遅れた図書館の片隅で、ハリーとブライアンのやりとりを、固唾を呑んで見守っているような気分になる。そして考える。ハリーの過去を考える。彼は何故こうなってしまったのだろう? ブライアンの未来を考える。彼はあれからどうなっただろう? その逆も考える。ハリーの飼っている「不便な」いぬはどうなるだろう? ブライアンがもし警察官ではなく野球選手になっていたら? 時間が跳ばず、その場で聴こえることしか聴こえず、その場で見えるものしか見えない舞台から、多くのものを受けとって観客たちは帰っていく。

舞台の勝村さんを観たのは久しぶり。やはり居ずまいが強力。そしてチャーミング。このひとのくえなさ、皮肉屋さんっぷりは池田成志と張ると思っているんですが、そういうひとが舞台に立ったとき見せる真摯な姿。そこに魅せられる。いつの間にか五十代。かつての童顔の青年が、悩める現代の青年の命を守ろうと父親の顔を見せる。舞台はつくりもので、舞台には嘘しか載らないのに、そこに真実が宿る瞬間を見せてくる役者さん。戸塚さんはとても引きがある。ねこのように身が軽くしなやか。ジャンプしても着地の音がしない。舞台に現れた瞬間から、さびしげな佇まいが謎を呼び、その謎が興味を呼ぶ。ハリーとはどんな人物なんだろう? すぐに役へと入り込ませてくれた。大沢さんが演じたときにも感じたけど、ハリーはねこみたいでいぬみたいなんだよね。

非常に見応えある舞台でした。リピートしたいけどチケットもうとれないだろうな、一度観られただけでも幸運でした。

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その他。

・中村まことさんと佐藤真弓さんが声で出演してるぞー!

・舞台観たあとコーヒー飲みたくなります。帰り羽當でコーヒー飲んで帰りました、スタバを横目にね(笑)
・昔はコーヒーはコーヒーしかなかった、ってセリフ聞くと、『ガラスの仮面』で亜弓さんがオレンジペコーを飲んでるの見て「オレンジペコーて? 紅茶は紅茶だろ?」と言った知人の話を思い出すわ……

・いつかスズカツさん演出の『負傷者16人』を観たいな〜とも思いました。希望は声に出しとこう、ことだまことだま
・そしてスズカツさん、パンフレットで初めて演出したのは2006年と言ってるけど2004年ですよ……おたく故重箱のすみつついてすみませんね……

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・舞台「Defiled -ディファイルド-」オフィシャルサイト

・戸塚祥太&勝村政信「Defiled」開幕、緊迫した状況下で心理戦繰り広げる - ステージナタリー
・観劇予報 : 戸塚祥太・勝村政信が挑む2人芝居『Defiled-ディファイルド-』が開幕! フォトコール&囲み取材レポート

04月08日(土)
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