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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『Pro・cess2017』
観客は数ヶ月毎にその成果しか目にしない。彼らの身体的変化を緩やかに見ることが出来ない。久し振りに見たら杖をついていたり車椅子で移動するようになっていたりする。反面、このまえはあんなに弱っていたのに……と心配になる程だった役者が闊達に動きまわっていたり、格段に声が通るようになっていることもある。悲しみ、驚く。その繰り返し。
ひとつ余った椅子は、水槽は誰のものか。今よろめいたのは演技なのか、言葉に詰まるのは間をとっているのか。そういうことも含めて今後もとことん観ていきたい。肖像画が入っていない額縁、大きな窓と、風に揺れるカーテン。不在のひとを思い、今ここにいるひとに眼差しを贈る。
終盤、「自分の名前を言ってただ立つことが、最も美しく難しい」というような言葉が語られる。確か蜷川さんがオーディション時に言っていたことだ。劇団員がひとりずつまっすぐに前を向き、自身の名前と年齢を名乗り、すっと立つ。最初は重本惠津子、最後は高橋清。年齢が発せられるたび、客席から感嘆の空気が漏れる。それもつかの間、彼らは罵りの言葉を吐き出し始める。「このやろう!」「何やってんだ!」ほどなく気付く、蜷川さんだ。あの誠実な罵声だ。これにはやられた。なんてにくい演出。本番の数日前に決まったそうだ。
想像する。尊晶さんと劇団員が案を出し合う。こんなこと言われたねえ、ああ、こんなふうに怒鳴られた。笑い乍ら、やがて寂しげに。そんな光景。こうして不在の演出家は舞台に現れる。演劇は目に見えるものだけではないのだ。それを教えてくれたのは蜷川さんだったし、蜷川さんの舞台に関わる出演者、スタッフだった。ここからまた始める。ゴールド・シアターの力強い歩みに思わず涙。
カーテンコールはゆっくりだ。全員が袖に入りきらないうちに、また出てくる。ちょっとくすりとする。また観にきます。
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・さいたまゴールド・シアター『Pro・cess2017』|彩の国さいたま芸術劇場
・本編、暗転から最初の照明がつくと、すぐ隣の通路に尊晶さんが座っていた。まったく気配がなかった。上演中、身じろぎもせず舞台を観ていた。終演、暗転。カーテンコールのあかりがつくと、そこにはもういなかった。去る気配もやはりまったくなかった
・そんな尊晶さん、差し入れを沢山渡されていたのに思わずにっこり。着ている服、細身のシルエット、意識的なのか判らないけど蜷川さんに似ている。藤田俊太郎さんが書いてたけど蜷川さんは門下生に服やら本やらバンバンあげちゃうひとだったようで、あの服も蜷川さんのものだったのかもしれないななんて思った
・そうそう、ゴールド・シアター宛と尊晶さん宛に、蜷川実花さんからおいわいのフラワースタンドが届いてました。ピンクとブルー、実花さんらしい色使い
・ところでさい芸、三月いっぱいでビストロやまが移転ですって(泣)ぺぺロネは残るそう。いろいろ考え込んじゃった……あの場所で月間、年間通じてコンスタントに長い公演を打てる企画なり、観客を呼べる作品、出演者、スタッフなり。シェイクスピアシリーズの再開は今年末。うーむ
01月29日(日)
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