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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■猫のホテル『苦労人』、高橋徹也×小林建樹『1972』
ステージ上にはグランドピアノ、これは嬉しい。高橋さんは事前告知でバンド編成だと言っていたな、小林さんはどうなのかな? と思っていると、ひとりでふらりと出てきました。ニコッ、と笑って演奏開始。
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セットリスト(小林さんのDiaryから)
01. 赤目のJack
02. 満月
03. 明日の風
04. Sound Glider
05. 夏の予感
06. 祈り
07. Bless
08. 禁園
09. SpooN
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01〜04はアコギ、以降はピアノ。ライヴは二年ぶりとのことなので一昨年のレコ発以来かな。喉の調子はどうだろう? と思っていたら第一声からあのスッカーンとした声。うわ、かわらん。長いことひとまえで唄ってなくても、ひとに聴かせる目的がなくても唄い続けているんだろうなあと思わせられる抜けの良さでした。最新作『Emotion』では、声を張らずに優しく唄っているナンバーが多い印象だったのですが、ライヴで唄うと力強い。一気に四曲、拍手出来ん。「明日の風」は新曲かな、紹介しとかなきゃ! と途中で気付いたのか間奏中「あしたのかぜ!」と口走ってました。
その後ピアノに移動、今やった四曲は〜とさわりを弾き語りで紹介。いやさわりどころじゃなかった、一曲につきツーコーラスくらい迄弾き語った。何をはじめる……と見守るばかりだったがギターとピアノでのアレンジの違いが聴けて楽しい。久しぶりのライヴなのですごく練習したんですよ、30回くらい、MCも練習しました、何話そうか考えて…ここでモーツァルト弾くつもりだったんですけどやめました、ちょっと違うなと思って。と言った先から弾き出したのは交響曲40番。「一曲まるまる弾こうと思ってたんですけど」。聴きたいけど持ち時間がなくなってしまうやね……。「夏の予感」と「祈り」のブリッジはなんと「祈り」の大サビ(といえばいいのか? “時の中で 遥か未来で”の箇所から入り前奏に戻る)。練習して構成も考えて、しかし自然に指が動いているようでもある。「フリージャズ」の歌詞、“暴れ出す指先”を思い出す。
「練習したら上手くなるかというとそうじゃないんですね、でもオートマチックに演奏出来るようになる」。ルーティンになるってことかな、アスリート的。「渋谷に来るといつも同じ道を歩く。同じ場所を通って、同じところでごはんを食べるんです」「東急が壊れてて、いつも行ってた喫煙所がなくなってた」。このひとの見るもの聴くものは、こういった言葉と音で表現される。やっぱりこのひとは音楽を通して生きているのだなあと思う。生活をメロディ、ハーモニー、リズムに変換して生きている。
何をとっても独特だが、リズムに関しては少しだけ解釈出来る。今思えばデビュー作に窪田晴男やホッピー神山が絡んだことが運命的だが、ファンクからのアフロキューバンリズム、ブラジリアンリズムへの興味と追求がずっと続いている。以前の発言やDiaryの内容からすると、菊地成孔の著書からの影響もあるようだ。だいたいポリリズムを独奏でやってみようと思うのもすごいが(ひとを集める手間や時間を研究に向けたいのかもしれない)、ひとりでやってみると、このひとにしか表現し得ないものになる。演奏し乍ら試行錯誤する。弾き間違えがあったとすれば、そこを拍の起点にして流れを変える。そうするとミスタッチはミスではなくなる。グルーヴが生まれる。おそらく複合リズムのクリックが頭のなかで鳴っている。
モーツァルトもおそらく楽譜通りじゃない、リズムも和音もアレンジしてる。完コピから始めるのかもしれないが、パターンやバリエーションをいくらでも思いついてしまうのだろう。そして演奏と自分のコンディションを照会し、環境との関わりも検証していく。没頭してると日が暮れる。気付けば数年経っている。
常に頭のなかで本人にしか聴こえない音楽が鳴っていて、それを今ある身体と楽器でどこ迄再現出来るか、外に出せるか。音色とリズムでどこ迄拡げられるか。追求していくときりがないのだろう。このひとのライヴは、数ある頭のなかの音楽から外に出せたものをおすそわけしてもらう気持ちで聴いている。ありがたいことです。「SpooN」を聴けたのが嬉しかった。どれを聴けても嬉しいけどね。このひとがいつでも好きに音楽を奏でられる環境がありますように。
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07月08日(金)
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