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by kai
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■『書く女』
一葉を演じる黒木華が本当に素晴らしかった。登場してほどなくやぶにらみ、その人物イメージを決定づける。舞台で表現するには地味な動作である書くという行為と、作家が他人に見せたくないであろう(ブラックボックスともいえる)文章を絞り出す最中の様子を鮮烈に見せる。遊女について書くときの、筆を煙管に見立ててとるポーズに息を呑んだ。これから書く登場人物が降りてきた錯覚を起こす。暗闇の舞台にひとすじのピンスポット、そのなかで背中をまるめ、ひたすら書く彼女。「書く女」一葉の孤独が迫ってくるかのようだった。25歳でもはや手練の域だが、思えば一葉は24歳で亡くなったのだ。桃水を演じた平岳大は艶のある人物像。包容力あふれるおおらかさとフェミニンと。あーこりゃもてるわ(笑)。一葉の恋の相手は彼でなくてはならなかった、と思わせられる説得力。木野花演じる母親はムカムカするくらい時代の女、なのにあの愛嬌には参る。愛嬌といえば「すね者」一葉の理解者である斎藤緑雨役、古河耕史もいやみが憎めない人物像。
一葉に「楽しい」時間を運んできた橋本淳(平田禿木)、山崎彬(馬場孤蝶)、兼崎健太郎(川上眉山)のトリオもいいコンビネーション。一葉とともに時代、社会、そして人生を見せていく朝倉あき(樋口くに)、清水葉月(い夏=伊東夏子)、森岡光(野々宮菊子)、早瀬英里奈(半井幸子)、長尾純子(田辺龍子)は女性の悩みと喜び、弱さと強さを示してくれた。誰もが欠かせない。
劇中曲と演奏は林正樹(だったのよ〜!)。効果音を表現する即興的な演奏も。穏やかに作品に寄り添い、なおかつ心に残るメロディの数々。パンフレットで「演劇の音楽を作曲も演奏も全て任せてもらえるのは今回の『書く女』が初めて」と仰ってたけど、初演にはピアノ演奏はなかったのかな。
最後の台詞、「さあ、次は何を書こうか」。希望に満ちた言葉だ。そう間をおかず彼女が人生を終えることを知っている120年後の観客は、今も彼女の作品が読み継がれていることも知っている。ふたつの時代を俯瞰出来る。こんな「楽しい」ことってあるだろうか。この物語を世に出した作家、舞台に載せたスタッフ、ここに立つ出演者、そして樋口一葉に心からの拍手をおくった。雪が降るかもしれないという日に観られたことも、素敵な思い出。
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その他。
・asahi.com|樋口一葉と半井桃水―東京・平河町
・プログラム、永井さんの対談相手が本谷有希子。タイムリ〜
・一葉の脳内でさまざまなひとの言葉がぐるぐるするシーン、桃水の「野山に行こう♪ 寄席に行こう♪」の描写がカラフルメリィの「俺には良心がないのか!」を彷彿する演出でブルブルした…天使と悪魔が出て来て同意見だったってシーンね
・いや〜それにしても平さんはなんでこう、すっごい理知的に見えるときとアホの子に見えるときとあるのだろう……好き! 上記の台詞も「♪」が見えるようだったわよ
・ところでSePT、1Fロビーのカフェがmixture(下北沢のパン屋さん。好き)になってたのね! いつも開演ギリギリ着で休憩時間はトイレに並ぶから知らなかったよ。雪を用心して早めに着いた今回初めて気付いた……次回は利用したい!
01月23日(土)
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