ID:43818
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by kai
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■『バグダッド動物園のベンガルタイガー』
こんななか、サダムの息子だけはずっと悪として描写される。この作品の作者がアメリカ人だということを考えると、なかなか複雑でもある。演じる粟野史浩さんはこれが役者の醍醐味だとでもいうように、嬉々として悪に徹しているようにも見えた。斉木しげるさんが演じても面白そう、シティボーイズのコントを夢想するくらい、滑稽でもあった。そしてタイトルロールのとら、杉本哲太さん。殆どの台詞がモノローグ、これはたいへん。客席に話しかけるような口調も交えて、罪について、神について考える。しかし腹は減る。髭面、足袋のようにふたまたに分かれた靴。それだけで「とら」と認識出来る、演劇の面白さ。

演劇の面白さは、アメリカ人やイラク人を日本人が演じるということもそう。舞台では英語、アラビア語、日本語が使われる。日本語は本来英語で書かれたものだ。アラビア語は翻訳されない。相手が何を言っているかわからない、というのは言葉そのものだけでなく、その言葉を発する人物がどんな環境に育ち、どんな信仰を持っているかも要因になる。日本という国も、アメリカやイラクからすればわからないことだらけだろう。理解しようとするのか、理解出来なくても、いや、出来ないからこその寛容は、どこ迄有効なのだろう。「幽霊ばっかり」のバグダッド、とらも故郷へは帰らない。遠い場所のため帰ることが出来ないのかもしれない。すげえ腹減った。幽霊でも腹が減る。果たして獲物はくるのか。腹が減ることに、寛容はあるか?

12月23日(水)
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